第13話
ショッピングモールから家まで徒歩で20分ほどなので、歩いて帰ることにした。
いくつか衣服があるが、荷物になるほどではない。
「春香、今日もありがとう。」
春香と一緒にいる日常が当たり前すぎて失うなんてことを考えていなかった昔。
「私は楽しかった。真一は?」
大人になって、夫婦になって、子供ができて、おじいさんおばあさんになるまで一緒にいると思っていた。
「楽しかったよ。すごく。
こんな毎日が一生続けばいいなって思ったよ。」
隣にいてくれることがこんなに素晴らしいことだって、気づいていなかった。
「よかった。少し前まではわかんなかったの。
真一と一緒にいて、私はずっと楽しくて。
こんな毎日がずっと続けばいいのにって思ってた。」
子供の頃から一緒にいるから、言わなくてもわかるなんて思って甘えていた。
「ごめんね。
これからはちゃんと楽しいとか、嬉しいとか、伝えるようにするね。」
これからもずっと一緒に手をつないで歩くために。
春香を失うことを恐れずに生むように。
「真一は口下手だからなー。
ちゃんと言える?」
春香がにやにやとしながら、俺の顔を覗き込むように告げる。
「言うのは下手かもしれないけど、その時は今みたいに頑張って伝えるようにする。
行動でも示すようにする。でも、ダメで何にも伝わらないときは聞いてほしいんだ。
わかんなくて、つらくて、苦しんでほしくないから。」
できるだけ真剣に、春香に思いが伝わるように答える。
「わかった。
じゃあ、聞いてもいいかな。」
「うん、いいよ。」
ふと、建物間を抜け西日が差す。
「私のこと、好き?」
「うん。好きだよ。
ずっと前から変わらず、初恋は春香で、今も変わらず、いや昔よりもずっと大好きだよ。」
春香のほうを向いていても逆光で表情が見えない。
「私も、真一のことが世界で一番好き。
だから、私と付き合ってよ。
クリスマスに告白したいって言ってくれたけど、でも、今がいい。
今付き合いたい。今、真一の彼女になりたい。」
からかっているようなそぶりはない。
多分、ずっと考えてきたことだったのだろう。
「春香。
俺はずっとはるかに甘えてきたんだ。
だから、告白は俺からさせてほしい。」
春香の顔は見えないが、頷いたように見えた。
「春香、俺は春香が好きだ。
春香から告白いてほしいとか、甘えたこと考えていた俺だけど。
春香を好きな気持ちも、春香を守りたい気持ちも、だれにも負けない自信がある。
俺と付き合ってほしい。」
春香の顔が近づいてくる。
春香の甘い香りが、少しづつ近づいてくる。
チュッと、音が鳴って、俺の唇に柔らかいものが触れる。
「私を待たせるから、我慢できなかった。
でも、キスくらいいいよね。彼氏彼女なんだもん。」
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