第11話

 お金を下ろした俺は、春香の元に向かっていた。

 春香は良くナンパされる。美人なので一人にしたときは勿論、誰かと一緒にいてもナンパされる。

 案の定だった。春香が男に声をかけられている。


 金髪の軽薄そう感じのする男だ。


 なんでこういったナンパをする輩は、ダメージジーンズにアロハシャツみたいな柄のシャツを着ているのだろう。

 アニメなんかでよく見るようなナンパ男だ。


「春香、お待たせ。」


 ナンパ男を無視してはるかに声をかける。

 春香もナンパなどされていなかったかのように、手を振ってくれる。


「真一、遅かったね。

 行くとこ決まったから、早くいこ。」


 春香が俺の手を握ってくる。

 こういうナンパ野郎は無視するのが俺らの基本的な対応だ。


「おい、無視してんじゃねぇよ!」


 ナンパ男が俺の肩を掴んで切れ気味に叫ぶ。

 こういう陽キャは、なぜか自分が無視されたりするのは苦手なようだ。


「お前こそ、人の女に手を出してんじゃねぇよ。

 失せろ。」


 こんなでも、俺は格闘技を学んでいる。

 春香はかわいいから、こういうナンパ野郎に会うことも慣れている。

 ある程度自衛できないと、春香を強引に連れて行こうとするやつもいるからと身に着けたのだ。


 俺の肩に置かれた手を握り、軽くひねる。

 不用意に俺の肩に手を置いてくれたおかげで、ひねりやすかった。


「痛ぇんだよ、くそが!離せよ!」


 いくらイキっていても、痛みに顔をゆがめ、腕のひねりに合わせて体を斜めにしている姿は滑稽だった。


「あんたも、手を出す相手は選べよ。

 離してやるから、さっさとどっか行きな。」


 ぐっと押すように手を離すと、ナンパ男は地面に倒れこむ。

 こういう風に守れるようになると、格闘技をまじめにやってよかったと思える。


「覚えてろよ!」


 ナンパ男は捨て台詞をはいて、走って逃げて行った。

 方に手を置いたくらいで暴力をふるってはダメだと思うが、守るためには仕方がないのかなと思う。


「春香、大丈夫だった?」


 春香はずっと俺の手を握ったままだった。

 普通の繋ぎ方ではない、いわゆる恋人繋ぎだ。


「うん。思ったよりもしつこくてさ、ごめんね?」


 少しだけ手の力を抜くが、春香は手を放すつもりはないと言わんばかりにギュッと握ってくる。


「全然気にしないで。

 春香を守れてよかった。」

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