第九章 独白の味は?
1
のらりくらり病院を出る。
ユーリはハーベストが銃を携帯することを許した。わざわざ新品を調達してくれたのだ。彼を廃人にしかけておいて、よくそんな真似ができるな、とハーベストは複雑な気分になる。
二人は都市の雑踏に紛れた。
「もっと詰めて歩いてちょうだい。バレてしまうでしょう」
ユーリがハーベストに身を寄せた。布越しに彼女の体温が伝わる。病み上がりのハーベストでは、女の体でも預けられると身が軋む。折れた左腕を気にしている余裕もない。
「そうそうデート中のカップルみたいに……」
「バレたくないなら、もっと格好に気おつけるべきです」
独裁者はいつも通りの服装だ。ジーンズジャケットにロングスカート。だけど誰も彼女が彼女だと気づかない。あるいは気づいていてもユーリと関わりたい者などいない。神は敬うものではない。畏れるものだ。
ふたりは鬼太郎と芽有のようなカップルには程遠い。ハーベストの扱いは恋人じゃなく凶器だ。身長一九〇センチ体重八五キロの殺人マシンだ。忠誠心に欠けるが、頑丈で打たれ強い。どんなヒーローだって撃ち抜ける。ハーベストが銃にそう向き合っていたように、ユーリもこう言うだろう「銃は銃だ。便利で都合がいい道具に過ぎない」と。
ユーリに連れられ、どこに向かうか、ハーベストには薄々分かっていた。ここはハーベストがよく通る道だ。倫敦塔へ辿る大通りだ。
倫敦塔の入り口に衛兵はいなかった。あのやる気のない、いつも眠たげな男だ。ユーリに尋ねれば、衛兵は死んだという。
【死因:流れ弾】
衛兵はチンピラのいざこざに巻き込まれたらしい。チンピラはどうなったかって? 独裁者の身内に弾を打ち込んだのだ。カラスの餌にされた。比喩ではなく、本当に家畜の餌になった。現在は新しい衛兵を募集中だという。
「応募してみる? 贔屓してあげる」
「冗談キツいです」
門番のいない門をくぐって、彼等は迷宮入りした。ここを訪れた時、ポッピーが案内してくれたと思い出す。あの負けん気の強い少女は元気にしているだろうか?
右往左往する通路と上下にのたうつ階段を進む。
一〇分ほど歩いて限界がきた。ガクンと膝が折れる。卒倒しそうな体をユーリが支えてくれた。ハーベストはぎょっとする。信じがたいことだ。こんなユーリを見たことがない。天上天下唯我独尊。それが彼女のスタイルだったはずだ。いつにもまして今日のユーリには驚かされる。月が燃えるような天変地異だ。
「まだ眠る時間じゃないわ」
ユーリが肩を貸してくれる。とはいっても華奢な体で、ハーベストを支えるには無理がある。巨人が爪楊枝を杖にするようなものだ。ユーリは息も絶え絶えでハーベストを助ける。
「はっ……まったく……はっ。ハー君……重すぎ」
「太ってませんよ」
「筋肉つけ過ぎなのよ」
「ユーリのせいでもある」
「せめて頭に詰めた筋肉は減らしなさい」
か細い声で彼女が尋ねた。
「映画館って知ってる?」
「興味ないですね」
「知ってはいるんだ?」
「……」
ハーベストは映画を観ない。都市政府の検閲だらけのフィルムなど、誰が好んで観る? だが独裁者は事情が違うのだろう。オリジナルのフィルムを持っているのかもしれない。“無修正の純粋な創作物”、聞くだけで身震いしてしまう。
「映画館をね、ひとつ隠し持ってるの」
「それは君が買ったんですか……」
「血税で買ったに決まってるじゃない」
「税金泥棒」
「ちなみに私はどこに座っていると思う?」
「ユーリの効き目は右だ。それに眼鏡で矯正している。中央より少しだけ左にずれた席ですね」
ユーリが唇をきゅっと白くなるまで結んだ。目は丸くなっていた。初めて見せる表情だ。ハーベストまで意表を突かれてしまう。
ぽつり。彼女はつぶやく。
「意外にどうして、よく見ているわね……」
しばしの空白。廊下を叩く足音だけが聞こえる。黙り込んでいたユーリが喋る。
「君にしては珍しく……、いえ唯一の正解ね」
「貶しているのか、褒めているのか……」
「褒めているのよ。まず間違いなく」
ユーリはまた黙りこくってしまう。ハーベストを支えるあまりヘトヘトになったのか? 「どうかしてしまったのでは」と声に出してしまうが、ユーリは無視した。
ハーベストは想像した。
パンデミック発生前のスタイルを忠実に再現した映画館。そこでユーリはどんな映画を観るのだろう? 二千席もある椅子のひとつに、ぽつんと独り座っているユーリ・ノワールを思い浮かべる。
神の特権というやつだ。孤独なのか、あるいは孤高なのか。どう呼ぶかはハーベストが決めることじゃない。
ユーリは映画を行儀よく観ているだろうか? いや、そんなわけがない。乙女のくせに足を広く組んで、くつろいでいるだろう。肘を立て細い顎先を支えている。清々しいほどに、はしたない。だけど表情は想い描けない。ハーベストの陳腐な想像力では不可能だ。だからこそユーリの隣の席に座って、その表情を見てみたいと思った。
2
倫敦塔の一室に到着した。疲労困憊。ふたりして息を荒げている。空より高い山に到達したみたいだ。
先週の金曜日に訪れた部屋とよく似ている。二対のテーブルとイス。味気ない簡素な部屋。だけど、ここは千変万化の大迷宮。毎日のように増減改築を繰り返している倫敦塔だ。探るだけ無意味というもの。
ハーベストはそっと耳を澄ます。孤児達の所在が気になった。
「安心して。子供たちは庭で遊んでいるの」
ユーリが見透かしたように告げた。彼女も調子を取り戻したらしい。いつもの軽薄な笑みを顔に貼りつけている。なぜか少しだけハーベストも安心した。
ハーベストは壁に体をこすりつけて寄り掛かる。
ユーリはテーブル上の紙袋を放って寄越す。中身は分かっている。今回の報奨金だ。気前よく詰め込んだ札束が入っているのだろう。手に取ってみれば、ずしりと重みが腰まで伝わる。
「店の再建代は別払い。イロもつけてあげた」
「破格ですね」
「ハー君はまだ行方不明扱いだから、新しい身分証明も発行してあげるけど?」
「同姓同名でお願いします」
これでハーベスト・オセロの生活は元通り。ひっくり返した砂時計みたいに日常が帰ってくる。踵を返して帰ろうとするハーベストに、
「待ってちょうだい」
ユーリが引き留めた。
「なんのためにハー君をここまで引きずってきたと思ってるの」
彼女が部屋の壁に触れる。ちょっとした溝がある。親指程度の面積を凹ませた。続けて壁一面に、ぽっかり穴が開いた。カラクリ仕掛けの隠し部屋を開いてみせただけ。驚くことはない。いまどき隠し部屋なんて、どの家庭も持っている。
シークレットゾーン。ここから先は、彼女だけの秘密の部屋。独裁者の体内そのものだ。
小さな部屋だ。けれど質素とは程遠い。モノ、モノ、モノ。にぎわい豊かなオモチャ部屋がそこにあった。
壁一面にずらりと並べられた書架。前面に鎮座するワイドテレビ。テレビ下の棚にはビデオレコーダー、傍には十数種類のゲーム機が積み上げられていた。天井を見上げれば大砲みたいなきコンポが吊り下がっている。部屋の隅には作りかけのプラモデルが、行き場もなく打ち捨てられている。巨大戦艦や人型ロボットが混ざり合っている。彼等は戦争の末に生まれた、残骸の山のようだった。
「なにか映画でも観る?」
「冗談じゃない」
差し向けられたリモコンを反射的に避けてしまう。銃口を向けられた気分だ。否、銃なんかより恐ろしい。英雄病への入り口そのものだ。核ミサイルのスイッチにも匹敵する。
この部屋にあるのは無修正ばかり。完全無添加にしてオリジナルの創作物。英雄病の感染源そのものだ。
「私は純粋が好きなの」
それはユーリ・ノワールのカミングアウトだった。コミック、映画、音楽あるいはポルノでも構わない。手つかずの創作物を搔き集めたのだという。
ユーリはジーンズジャケットを脱いで、ソファーの背に掛ける。ぐるりぐるり。肩甲骨を回してパキパキ鳴らした。羽を伸ばす鳥のように彼女は自由だった。
「私が今まで、何をしてきたと思う?」
「わかるわけない。だけど」
「だけど?」
「お菓子を焼くことより重要だとは思えない」
「ふむ。一理ある」
ユーリが満足げに頷いた。
「私はね、世界の安定を実現しているの」
「抽象的な物言いは嫌いです」
「今の世界で良いということよ」
ハーベストが目を細める。
世界は病に侵されていると、そうユーリはいつも言っていたじゃないか。「世界の安定」なんかよりも、ずっと先にやることがあるだろう? ヒーロー共を始末するためにハーベストを利用してきたのではないのか。彼女はいつもそうだ。リボンを結ぶことすら苦戦するような年頃から、誰も見えない風景を見据えている。
「私はね。ハー君が、いえ人類諸君が決めかねていることを代行しているの」
ユーリ・ノワールは語る。
世界が病に伏す前。世はひどく不安定だったという。戦争、紛争、飢饉、疫病、災害、なんでもござれ。人類は多種多様な争いで自滅の道を辿っていた。人類が病んでいない瞬間など有史以来一度もなかった。人類は足のつま先から頭のてっぺんまで、ありとあらゆる病気を発症している。地獄を生クリーム状に練って、ふんわり分厚い悪意でこしらえたシフォンケーキみたいなものだ。人間は度し難いほど甘くて愚かだ。
だが今はどうだろう?
あらゆる複雑な問題が、怪奇にして曖昧な現状が、よりシンプルになった。
正義と悪の戦い。この星には、それしかない。たったひとつの争いに終始しているから、他で争う余裕がなくなってしまった。
正義と悪の争いだけになることで、他の争いは激減したという。彼女が望むのは永遠に正義と悪が争い続ける世界だ。争いは絶えないが、二者がいる限り人類は生き続ける。
「平和とは呼べないけど、安定した世界よ」
「それを地獄と呼ぶんです」
「ならば人が住むべきは、やはり地獄なのよ」
透徹した瞳が断言する。
ユーリがハーベストの袖を引っ張る。
「ほらほら、ハー君も座りたいでしょ? 私の特等席……」
ユーリが両腕を伸ばして、ハーベストの首に回す。ゆるりと伸びた細腕を振り払えず、なすがまま。ハーベストはとって代わってソファーに沈められた。ユーリが彼の両肩に手を置く。重い。シロップ漬けのフルーツみたいに、ハーベストはソファーに封印されてしまった。
重くのしかかるような書架の群れ。
帝王のように鎮座するワイドテレビ。
雑多な人形や模型は神にひれ伏すように横たわっている。
ソファーからの景色が、彼女の主観そのものだ。
ハーベストが死に物狂いで守ったセカイがあったように、ユーリにも愛するセカイがある。
「私はね、ヒーローになりたかったの」
ユーリ・ノワールは教えてくれた。
彼女は才に欠けていた。ハーベストのような腕っぷしもない。かといって英雄病にも感染しない。否、感染できなかった。
小説を読み漁っても。コミックに浸ろうと。映画を見尽くしても。あげくの果てには下品なポルノ雑誌を掻き集めた。だけど病には侵されなかった。なんの能力も発症しない。
「そんな真似をして英雄病にならないわけがない」
「ふふっ、私もそう思ってた」
話が本当だとすればユーリ・ノワールは奇跡的な存在だ。英雄病への抗体を持つ唯一無二の人間だ。彼女を分析すればワクチンが作れるかもしれない。だが彼女はそんな奇跡なんて望んでいなかった。
この部屋は“籠”だ。籠から外を覗く鳥は何を想うだろう? テレビやコミックが「ユーリが求める現実」そのものなのだろう。彼女はこの世界に住みたかった。シンプルで迷いのない世界に。
ユーリが吐息をこぼす。
「私は今の世界が大好きなのに、そのための才能がなかったの」
ユーリ・ノワールとは何者だ?
本当はソファーに座って、空想の向こう側を覗くだけの少女じゃないのか?
正義と悪の戦いに耳を澄ませて、じっと部屋にこもる彼女こそ、ユーリの正体ではないのか?
ハーベストのような悪にも、鬼太郎達のような正義にもなりきれなかった。だから独裁者として世界中の役者を動かすしかなかった。彼女は物語の登場人物になれなかった。
哀れな神は脚本を綴り、独り世界を覗く。
ユーリは悪を養殖した。
あえて悪党だけの都市を運営し、正義だらけの世界と対立させる。独りではヒーローにはなれない。切磋琢磨するライバルとか、赤い糸で結ばれた恋人とか、そんなものはヒーローのオプションパーツに過ぎない。大事なのは敵だ。絶対的な宿敵こそヒーローが求めるものと考えた。影が生まれるために光が必要で、逆もまた然り。
ユーリは悪の都市を造ることでヒーローも造っていた。
全ては観客として、神として、役者を揃えるため。
ハーベストは震えた。ユーリはどうあっても孤独に生きるしかなかった。ユーリ・ノワールは独裁者になりたかったんじゃない。独裁者になるしかなかった。
「あら、泣いてくれるのかしら?」
「そんなわけない」
「涙を流すだけが、泣くわけじゃないわ」
ハーベストはなにも言えなかった。舌が別の生き物みたいに蠢いて、うまく喋れない。ユーリが彼の腰上にまたがる。容赦なく侵食する悪夢のように。ハーベストの顔を両手で掴んで捕えてしまう。
「あえて英雄病らしく振舞うなら」
私のセカイだ。よくよく観るがいい。自信満々に女は告げた。
「これが帝国元帥兼終身独裁官及び新世界調律師にして英雄病抗体保持者【異政者・ユーリ・ノワール】の能力“深倫敦(ニュー・ロンドン)”よ」
ユーリの目に狂気はない。期待がある。希望がある。憧れがある。ゴトーや鬼太郎とは違う。ハーベストが苦手な子供の表情だ。
だけど今回は顔を逸らせない。ユーリがハーベスの顔面をがっちり掴んで離さないからだ。いつの日かのポッピーと同じように……
「養殖モノの悪なら、殺しても替えが効く。何度でもヒーローと食い合わせばればいいわ」
でも、とユーリは続ける。
「ハー君は純粋な悪になれる。それが私の望み」
ユーリが満面の笑みを放った。
「君、すっごく素敵よ」
ハーベストだけが【PAWN】最後の生き残り。度重なる試練を乗り越え、ただの養殖モノから進化できるとユーリは確信した。
「ウナギがテムズ川を昇ってドラゴンになるのよ」
「そんなこと、望んじゃないない」
「知ってる」
気づけば体が勝手に動いていた。
ハーベストは拳銃をユーリの胸に突き付けていた。零距離。互いの心よりもずっと近い。どうやったって心臓を撃ち抜ける。
本能的な反応だった。ユーリは“正義”でも“悪”でもない。そんな次元はとうに超えている。いうなれば〝邪(よこしま)”なのだ。善悪を超えて全てを利用する怪物だ。
全身全霊でユーリを撃てと、ハーベストの魂が叫ぶ。ここで彼女を撃たなければ、この善悪が争う世界が永遠に続くだろう。彼女は闇より冷たい指で倫理を調律し、好き放題に世界を眺め続けるだろう。
世界が安定したって犠牲になる人間はいる。むしろ必要な犠牲があるからこそ、確実な安定があるのだ。犠牲とはハーベストのことであり、彼の店であり、そして……思い至って。ハーベストは戦慄した。
銃口がカタカタ震えた。ユーリがハーベストだけを「純粋な悪」に仕立てるだろうか? これはハーベストだけが可能な唯一無二のことだろうか? 否だ。期待通りの結果にならなかった場合に備えて、予備の戦略を用意しているに決まっている。そもそもハーベスト自身が最初の実験材料とは限らないのだ。ハーベストが失敗すれば、魔の手はユーリの近しい者へと及ぶ。この場合は……。
「ポッピーは? あの子達も巻き込むつもりですか?」
「自分で分かっていることを聞くなんて、ハー君らしくない」
彼のお菓子が好きだと言ってくれたポッピー。少女はユーリを心底信頼していたというのにユーリの玩具だなんて、あんまりじゃないか。
ユーリは銃口を愛撫するように指先で撫でた。
「で、撃つの? 撃たないの?」
「ここで君を殺せば、誰も気づかない。挑発は自殺行為ですよ」
「それでハー君が“純粋な悪”になれるなら、喜んで引き受ける」
ユーリはハーベストの可能性を信じている。独裁者を殺すことでハーベストは更なる高みを目指せる。
ハーベストに殺してもらうのも一興だ。そこまでして、ようやく真に迫る悪が誕生するのだ。自らの意思で世界を、支配を、独裁者を振り解け!
ハーベストが拳銃を絞め殺すように固く握りこむ。ユーリと唇が触れ合わんばかりに近い。互いの吐息が絡まって流れる。
「ハー君、最後くらい自分で決断したらどう?」
「僕が君を殺したら、君は何も観れない。役者を揃えた後、世界がどうなるか気になる筈だ」
最後の抵抗だ。死ぬなんてやめておけ、死んだら終わりだ。
「知ってる? 人間にできないことなんて、ないの」
「人は殺せば死ぬ。それ以上喋るな」
「想像するのよ。なによりも想像力こそが大事なの。今までだって、ずーっとそうしてきた」
ユーリ・ノワールは確信している。皮膚に弾丸がめり込み、脂肪を裂いて、筋肉を千切り、骨を砕いて、内臓をかき混ぜて、弾丸が飛び出る。それでも、ただちに死なない。砕かれた心臓が血液を送るのをやめて、脳に酸素が渡らなくても、死ぬには少しばかり猶予がある。全身の筋肉がひきつって、脳細胞が窒息して、最後のシナプスが火花散らす刹那まで、ユーリは想いを巡らせる。
人は容易く死ねない。その想いともなれば永久不滅だ。
死の直前。純粋なる世界を思い浮かべられる。決着後の未来は輝かしいものになる筈だ。それはどんな創作物に接するよりも、心地よいものになる。
「ハー君、もっと私を愉しませてちょうだい」
ハーベストはユーリと視線をぶつけた。もう彼は逃げない。正義だ悪だの、平和だ安定だの、どうでもいい。気に食わないのは……。
「ユーリは嘘を吐いている」
「どんな?」
「自分自身への嘘、ですよ」
ユーリは口笛を吹いた。イエスとノー。どちらと取ったか分からない。
「嘘のなかでも自分への嘘が一番嫌いだ」
「なにそれ」
「受け売りです」
「イジワルいう人もいるのね」
ユーリは大義名分を掲げて、中立気取りの神になって。だけど本当は世界が憎くてしょうがなかったんじゃなかったのか? 唯一自分を選ばなかった世界が好き過ぎて、同時に悔しかったんじゃないのか?
だからヒーローも市民の皆を役者に仕立て上げて、虐めて潰して壊して殺して……。それでも決して満足できなくて、ハーベストに全てを委ねるくらい絶望してしまったんじゃないのか?
勝手に作っておいて、勝手に絶望して。ユーリは正しく矛盾していて、正気で狂っている。それは世界を変えた病気みたいで……とても彼の手に負えない猛毒だ。ハーベストがもし本当のヒーローだったら。完全無欠のハッピーエンドだって夢じゃないのに。
「君はズルい奴だ」
ハーベストは引き金を引いた。
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