第2話 声

 其れはとても錆びていて、掠れていて、でもその声は歌声のようで、その声からは、その少女の一生をうかがう事が出来た。


 どことも知れない辺鄙で放置されている無数のコンテナ。

大人たちはそれを利用し、檻としてその少女らを拘置している。

 僕は、僕らを雇った無口な大人たちに銃を持たされ、このコンテナの警備をさせられている。何日も、何日もだ・・・。

 たまにその無数のコンテナの中から醜く甲高い声が聞こえてくる。

声が止んだと思えば、その中から僕らを雇った大人が出てくる。

 それを見ていると大人は必ず僕を殴ってくる。

 そんな醜い声が響く中、とあるコンテナの中から、か細く、頼りなく、儚く、安らぐ歌声のようなものが聞こえてきた。

 いつまでたっとてもその声は止まず、そして大人が出てこないから、この中には

その声の主以外誰もいないことを悟った。

 僕は言葉がわからない。

大人たちには禄に喋らせてもらえず、言葉らしい言葉を聞けるのは、

大人たちが聞いているラジオから流れる歌を盗み聞きしている時だけだった。

 僕はその歌声が聞いていたくて、大人たちにバレないようにそのコンテナに留まっていた。僕の力ではそのコンテナの扉を開けることはできず、一方的に聞き入るだけだった。

 その声を聴いて、その声が生まれる事が出来る自分の知らない世界を想像した。

その世界の中心で、少女は幸せに暮らしていて、毎日楽しそうにその声で唄っていた。

 それこそが、今までの少女の人生なのだと想像していた。

いつか言葉を覚えたら、少女に聞いてみよう、その声でどんな人生を歩んできたのかを。

 きっと、きっと幸せなのだろう。

 そんな時、大人たちがやってきた。僕は陰でその様子を見守っていた。

大人たちはそのコンテナの扉を開け、中へ入っていった。その扉の隙間からは、

表情が歪むほどの激臭が風に運ばれていた。

 少女の声は少し大きくなる。きっと聞いてくれる相手が来たから張り切っているのだろう。僕はこれ以上ここにいたらまた殴られると思い、また会いに行くことを誓い、その場を後にした。

 少女の声は錆びていて、掠れていて、とても美しかった。

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BODY 登ヒデキ @wakotsu

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