BODY

登ヒデキ

第1話 目

あちらこちらへと引っ張られ続けたであろう金網、幾重もの車輪の跡。人の轍。

誰かが「穴」だと言えば確かにそう見えなくはないそこかしこの地面に掘られた穴には、

まだまだ鮮血を垂れ流しているシタイが次々と放り込まれていた。

 シタイのにおい、ここは恐らく屍の国なのだろう、そうに違いない。

僕なんかよりも小さい子供が、子供よりも重そうな銃を両手で支え歩いている。

 その子供たちを見ないようにしつつ一服し続ける僕と同じ部隊の連中。

 その脇の小屋ではキース・テリー上等兵がズボンをおろし冷たいシタイに腰を振る。

 僕はこんな屍の国に自ら身を投じている。

むしろ創り上げている連中の一人でもある。

それもこれも僕が普段見ているテレビ番組が臨時ニュースで無くならないようにするためだ。

 たったそれだけの理由だと思われても仕方がない。たったそれだけの理由だけで僕は

数十人の人達を殺してきたが、逆に言えばたったそれだけの理由で僕は死と隣り合わせにしている訳なのだ。

 自分の平穏を守るために、僕らは子供らを雇い、テロ思想が根付いているこの村を壊し、屍の国を作り上げる。

 僕らは心の平穏という麻酔を、自らにかけていく。

いつかリバウンドが来るとしていても、僕が守りたかった平穏が守られるのだ。

 

 そんな事を数回頭の中で反復させながら、上半身がないシタイ、体のどこか一部なのは間違いのないシタイ、自殺者のシタイを穴に入れていく。

 

 数発の銃声が聞こえた。アサルトライフルとは違う少し軽めの音。

僕らが使用しているMP5で間違いない。また誰かが人を殺した、そういう合図だ。

銃声の先からズボンの股間の部分を赤くにじませたジャック少尉が姿勢を辛うじて保った

状態で確かにこちらへ歩いてくる。

 「あの糞!!噛みちぎりやがった!!!」

 笑う声、叱咤する声、そんな中に、僕にジャックが殺したであろうその者の後処理をする

命令の声が紛れていた。

 仕方ない、という言葉のマスキングを自らにかけ、その場へと向かう。

念のためにMP5のセーフティーを解除し構えながらその者が転がっているであろう小さな

納屋に入る。

 




 母だった。

 胸に三か所、口から上が銃弾で抉れたそのシタイは母だった。

 下半身が露わになり、股間から精液が垂れているそのシタイは母だった。

 昔つけた下腹部の傷跡は、確かに母だった。

 何故母がこんなところでこんな姿をしているのか分からない。

 何故3,4年会っていない母がこんなところに居るのか分からない。

 ただ僕は、心の平穏が乱れていく歪な音に耳を貸す。

臨時ニュースのBGMにただただいやいや聞かされているような感覚。

 この心の平穏を戻すには、保つには、一体どうすれば・・・。

僕は既に解除されているセーフティーを解除しようとしていた。

 僕は、心に、平穏を取り戻すというただ一つの無意味な麻酔を抗うことなく打ち、

撃ち尽くす。


 数名の同じ部隊だった連中シタイの中に、僕も転がっている。

息を吐く事に血の泡が吐き出される。

麻酔が切れ、何故こんなことをしたのか分からないという考えが支配してくる。

だれも、心のマスキングには逆らえない。心の平穏という宗教思想にも等しいそれは、さぞ多くの人間を救い、殺してきたのだろう。

僕らはみな、心の耳を傾けて、その言葉(ますい)に聞き惚れる。

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