「奥さま……」
《止められるのは、ツトムちゃんだけ。これが、ワタシの、最後のお願い……》
ベンケイは起き上がった。凪沙の力で
少女はまっすぐ女王に迫る。遮る兵士の群に死の言葉を投げる。
「どけよ」
パン、パン、パンッ。スターマインの破裂音が連続する。凪沙と女王を結ぶ直線上の、兵士数十人が破裂し四方へ飛散する。肉片は
赤いどしゃ降りが晴れると、道ができた。
凍りつく兵士たちを両脇に、女王まで続く血みどろの道。
大海を割ったモーゼのように、凪沙の素足がジャブジャブと進む。
やって来る者から逃れようと女王はもがく。だが、床に貼り付いた躰は微塵も動かない。
ベンケイが追いすがって呼ぶ。凪沙は応えない。
「ママの事なんか思い出させやがって──」女王を見下して少女は言った。「オマエには
凪沙は自分の国の支配を取り戻した。だが、報復の意志だけになった少女にブレーキは無い。
凪沙を跳び越えて、ベンケイが前に立った。
「姫の勝ちだ。元の世界に戻れる。こいつらは幻だよ。どうでもいい──」言い終わらないうちに、殴られたように躰が横転した。
「うっせえよ。黙って見てな」
兵士たちは動こうともしない。新しい王の所業をただ見つめる。
「とりあえず焼いてやる」凪沙が右手を女王にかざす。身を包む炎が掌に集まる。まばゆい光の渦が巻く。
女王の顔が恐怖にひきつる。
ベンケイが再び立ちはだかった。凪沙と女王の間に。
「お願いだ、やめてくれ」両腕を拡げて女王の姿を隠す。「気持はわかる。でも、これ以上はダメだ。悪魔と同じになっちゃダメだ」
「邪魔すんなら、ベンケイでもただじゃおかない」
「ああ、いいさ。
凪沙の表情が動いた。不思議なものを見るようにベンケイの目を覗いた。
「──そしたら、姫が悪魔になるのを見ないで済む」ゴツい顔に穏やかな笑みが浮く。「ナギちゃんに殺されるなら、それでいいや……」
凪沙の殺気が突然緩んだ。張りつめた風船から空気が抜けるように。蒼い炎は勢いを弱め消えてゆく。
力を出し尽くした躰が揺らいだ。
倒れ込む凪沙をベンケイが抱き留めた。
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