「なあるほど。ふうん。これはおもしろい。娘の母親はある男にたいそう気に入られた。父親のボスである中国人」

 リウだ。酷薄な顔が浮かぶ。薄い唇を歪めて嗤う男。

「ボスは娘の母親を欲しがった。そして父親は、出世と引き換えに母親を差し出した」女王は凪沙を見つめている。その目は脳髄の、鍵の掛かった記憶領域をスキャンしているのだ。

「だが、ボスをができなかった母親は、自死を選んだ。母親はバラバラ死体で発見された。顔は潰されていた。ボスの怒りを買ったのだ。不幸なことに、現在いまは子供でも情報を得られる時代だ。母親に棄てられた娘は、カネを使って母親を探した。知らなくてもよかった真相を知って、娘は。ふんふん」

 凪沙の躰は小刻みに震えている。涸れたはずの瞳から涙がにじむ。

「おやおや、懐かしいのかな。まだ涙が残っていたかい」

「殺してやる」シュウは呻いた。「絶対に殺してやるぞ、キサマ」

 女王は小ばかにしたように鼻を鳴らした。「さあ、娘は充分に絶望したろう」拷問吏たちに目配せする。「前回とは別な責めをしてやれ。同じでは娘も退屈だろう」

 スペード二人は器具選びを始めた。

 シュウはもがくがどうにもならない。目を転じれば、ベンケイも真っ赤な額に血管を浮かせている。だが、空気のいましめはビクともしない。

 スペードKがペンチのような物を手に凪沙に寄った時、その声が広間に響いた。

《ナギサ、目を覚ましなさい。そんなが何です》澄んだソプラノ。やわらかな女性の声だ。

 女王が目を剝く。辺りを見廻す。シュウもベンケイも声の源を探す。

 唇を動かしているのは、スクリーンに映った女性──凪沙の母だ。

《しっかりなさい。心を強く持つのです》

「なぜ喋る? 誰が喋っていいと言った」女王はブーステッド二人に不審の目を向ける。すぐに二人の能力ではないと知り、空中のスクリーンを睨む。閉じよ、と命じた。

 スクリーンは閉じた。が、映像が消えても声は止まない。凪沙の母は娘への語りかけを続ける。

 突然、締めつけていた空気のいましめが解けた。透明な万力から力が抜け、シュウとベンケイは床に落ちた。

「戦えるか」ベンケイに訊く。「オレはこのザマだ」先の無い右腕を示す。

「ああ。まかせとけ。アニキはジャバなんとかをってくれた。それで充分!」

 束縛が解けた二人に女王は驚愕する。「なぜ解けた?」凪沙に目を転じる。「まさか……娘がやったのか?」その目が大きく見開く。「?」

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