女王は十字架の凪沙を蔑むように見る。「この娘が子供かのう? ランドには男と遊ぶアミューズメントがある。娘はよくそこへ出入りしていた。お気に入りのプレイは──」

「やめろ」シュウは呻く。ベンケイに聞かせたくない。

「──蜂蜜風呂さ。トロリとした湯でたっぷり温まって、そのあと美少年に全身の蜜を舐め取らせる。な」

 ベンケイの表情が歪む。

「ヒトの意識とは矛盾だらけでごうが深い。なのに、自分の中で強引に折り合いをつけようとする。滑稽じゃ」

 見えない万力が躰を締めつけてきた。

「オマエたち、雑巾みたいに一滴残らず搾りきってやろう──」

 胸が圧迫され肺の空気が押し出される。骨格に凝集したナノマシンが懸命に支えるが、肋骨に亀裂がはしる。意識が遠のく。

 潰される──

 握りしめていた巨人の手が緩んだ。肺が解放され酸素が供給される。シュウは激しく咳込んだ。

「……どうした、殺さないのか?」

 女王は眉を上げる。「思いついたのさ。ヒトは、時に、自分の苦しみより他人の苦しみに耐えられなくなる。オマエはそっちのタイプだな。考え直すかもしれないなあ、娘の拷問を見せてやれば。いずれどうなろうと、現在いまの苦痛を取り除いてやりたい──そう思うかもしれない」ふふ。愉快げに振り向く。スペードの拷問吏たちに顎をしゃくる。

 スペードQが垂れ幕の奥へ入り、木組みのワゴンを押して戻った。

 ワゴンに載る物を見て、シュウは背筋が凍った。苦痛を効果的に引き出すための禍々しい器具が、様々な形状を見せて並んでいる。

「よせ……やめろ!」

「心配するな。躰を切り取っても、また再生してやる。やり過ぎて殺しても、また生き返らせる。はワタシの国だからな。何でもできる。死んで逃げられるほど甘くないのさ」赤い大口を開けて笑った。

「そうそう。この娘にも他人の苦しみを見せてやらねば……母親だから他人ではないか」開いた両手を廻し、宙に円を描く。

 広間の中空に大スクリーンが開く。たおやかな女性の姿が映る。やさしい目をした美しい女性。ひと目で凪沙の母親とわかる。目鼻立ちがそっくりだ。

 凪沙の虚ろな目が見開く。

「自殺した、娘の母親だよ。自殺の様子を娘は知っているが、ナノマシイン治療とやらでボカシている。ということは、何かある。ホホ。それをまず掘り起こしてみよう」

「なんてヤツだ。オマエは悪魔以上に邪悪だ!」

めるなよ、テレるじゃないか」女王は立ち上がり、凪沙の正面に立つ。

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