見えない巨大な手がシュウを掴んだ。ベンケイと並んで吊り上げられる。女王がを使ったのだ。

「可愛いジャバを殺してくれたな。まあいい。また甦らせてやる。ワタシには何でもできるんだ。な~んでも。ここがだからだ」

「それは違う、とさっきも言った」シュウは首を振る。「ここは、凪沙の国だ」

 隣に並ぶベンケイの異状に気づいた。蒼白な顔で口をパクつかせている。

「ベンケイに何をした?」

「ふふ」女王はおかしそうに二人の男を見上げる。「空気の通る穴をとっても小さくしてやった。苦しいよォ。喋るなんてとてもできない。デカイのは頭に血が上ってるからな。話はオマエとしよう」

「何の話だ?」

 稲妻が炸裂し、雷鳴が城を揺らす。雨が激しく大窓を打つ。

「娘はこの国で楽しく遊んでおった。だが、この国は有料でな。制限時間を過ぎると追加チケットを購入しなければならない。これまで娘はきちんとルールに従っていたが、今回の支払いがまだだ。だから、ルール破りのお仕置きをしているわけだ」シュウをじっと見る。「オマエを解放してやろう。片腕がもげて、もう戦えまい。元の世界へ戻してやる。娘にAliceを投与しろ。追加のチケットだ」ニヤリと笑う。「Aliceを躰に入れれば、楽しい日々が戻る。拷問の記憶もきれいに消える」

現在いまをしのげたところで、み続ければいずれ廃人だ。同じ事だろ」

「先の事に目をつぶり現在いまの享楽に耽る。それは、オマエたちヒトの生きざまではないか。Aliceは人生の縮図だ。娘は、短くても極上の享楽を選んだ。さっさと廃人になるも人生。楽も苦も意識あってのこと。廃人こそ涅槃」

 何を言っても無駄だ。相手はマシンなのだ。

 凪沙が妹に重なる。あの時、何もしてやれなかった。

「まだ子供なんだ──」マシン相手に、祈るように言う。「ゆるしてやってくれ」

 ぷっ、と噴き女王は哄笑した。太腿を叩いて笑い続けた。

「おかしいのぉ。兵隊を何十人、可愛いペットまで殺しておいて、ゆるせと言うか。オマエのすべきは、元の世界に戻って娘にAliceをませる事だ。それを確認したら、デカイのも無事に帰してやる。よいな」

「断る」

 窓が光る。壇上が白く染まる。

 女王は芝居がかったため息をついた。

「では、二人とも処刑だ。包んでいる空気を引き伸ばして躰を破裂させる事ができる。逆に、縮めてし潰す事も。どっちがいい?」

 シュウは唇を噛む。躰の自由は奪われている。右手を失い、強化ナノは止血と治療に奔走している。疲労と相まって戦闘力は半減だ。頼みの綱はベンケイだけだが……

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