疲労が蓄積すればブーストレベルは落ちる。加速も攻撃力も低下する。このタフそうな相手に長期戦は禁物だ。
宙に跳び、躰をひねって黒龍の背に取り付いた。長い首に腕を巻き絞めにいく。
赤く濁る目が細まった。
苦悶かと思った。が、違う。
ドン、と背中に衝撃を受けた。龍が尾を叩きつけてきた。
首から腕を解き離れようとしたが、尾に巻き取られた。そのまま龍の正面に運ばれる。大鮫のような口が目前に開く。
瞬時に、龍の腹部に溝がある事に気づいた。躰を屈伸させるために、硬い表皮にはジョイントが必要だ。しかも背面より硬度が低そうに見える。
渾身の右ストレートを溝に叩き込んだ。
溝を貫き、肘まで腹部に突き刺さる。
龍は声をあげる。苦痛の声ではなかった。今度も
腹に埋まった腕が圧迫されて抜けない。そこに激痛が
女王は勝ち誇って言う。「残念だったな。ジャバウォックには口が二つある。オマエはもう一つの口に手を入れたのさ」
腹部の溝が唇のように上下にめくれた。トラバサミとなった牙がシュウの腕を咬んでいる。
ブチッ、と音がして肘から先を喰いちぎられた。鮮血が飛ぶ。
「腕はじきに消化される。30分もあれば充分だ」
苦痛に顔をしかめながらも、シュウは
「なに?」
シュウは目で照準する。龍の体表のあちらこちらを。
とつぜん龍は呻き、尾の
「何をした?」女王の顔が強張る。
「悪いもの喰ったらしいぜ」床に倒れたままシュウは応えた。
腹にぶち込んだ右拳は握っていたのだ。葉巻型マルチツールアイテム、切り札──ジョーカーを。
龍の胃袋の中、ナノマシン通信でシュウの指示を受けたジョーカーは、あらゆる向きに回転しながら熱線を撃ちまくった。フル出力だ。
耳をつんざく絶叫をあげて龍は踊り狂う。やがて、上下の口から紫の血を大量に吐き、音をたてて横倒しになった。しばらく痙攣していたが、間もなくそれも止んだ。紫の血溜まりには、バッテリーを使い果たしたジョーカーが転がっていた。
「トランプで勝つなら、ジョーカーの使い方次第だ」表情を無くした女王にシュウは言う。
女王は歯ぎしりした。音が聞こえたかと思ったほどだ。「そうだな。だが、手札は使いきった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます