太刀を受けながらも親衛隊を弾き飛ばす。掴まえて頭上に持ち上げ、立て膝に叩きつける。背骨を割られた絵札兵は、血ヘドを吐いて階段を転がる。

 シュウも加速ブーストした。フルスロットル。抵抗が上がり空気は油のような粘度を帯びる。ねっとり躰に絡みつき、高圧の深海を移動するようだ。相対的に相手の動きはスローモションになる。

 スピードで勝るシュウはベンケイを抜いて段を駆け上がる。遮る絵札兵たちを手刀ブレード──カマイタチで退ける。

 玉座はそこだ。

「ベンケイ、道を開けたぞ!」

「おうよ」大男は全パワーを右拳にチャージ。女王めがけて身を躍らせた。

 このとき、シュウは超高速の世界で疑念を覚えた。

 女王に宿る余裕は揺るぎない。何故だ? 遅れているわけではない。女王はこちらの加速について来ている。

 ビキイィン!

 金属が割れるような音が響いた。

 ベンケイは空中で静止していた。振り下ろした拳は、女王の顔30センチ手前で止まっている。止めたのは指一本。左で頬杖をついたまま、けだるげに立てた右手の人差し指一本で、大男の豪腕パンチを受け止めていた。

 ぐっ。空中で金縛りになった躰を動かそうとするが、琥珀に閉じ込められたように自由が利かない。女王が拳から指を離しても、ベンケイは空中に固定されたままだ。

念動力PK……」シュウは呻く。形の無いモノとは戦えない。

「PK……とはちょっと違うなあ。空気を固めただけだ」

 女王が見せたに畏れたか、兵士どもは立ち止まって傍観している。

 シュウは迂回して凪沙に迫った。まずは人質の保護だ。

 だが、行く手を遮るものが居た。それは吹き抜けの上階から降って来た。

 真上からの攻撃をかわし、跳び退いて距離を取る。

 地響きをたてて壇上に降り立ったのは、黒メタリックな鱗で覆われたドラゴンだ。ベンケイの倍もある巨体。手足に鉤爪を生やし、背にコウモリの翼を持つ。深海魚を思わせる顔が大口を開き、牙を剥いて咆哮した。

「ジャバウォック──可愛いペットじゃ。強いぞ。余興に戦ってみよ」

 コイツだけは出てきてほしくなかった。シュウはうんざりした。

 龍は両手の鉤爪で上段を、鞭のような尾で下段を狙ってくる。

 力量は──攻防で測るしかない。

 初撃を加速でいなし、ふところに飛び込んだ。手刀で薙ぐ。

 鋭い音をたててカマイタチが弾き返された。

「皮膚ははがねより硬くてのぉ。その程度の剣では斬れぬわ」女王は嘲る。

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