「娘に何の用だ?」女王はしわがれた声で問い返した。

「保護しに来た」

「おやおや、本人の希望で預かっているのだがな」

「丁重に扱われているなら問題ないが、どうも違うようだ」

 ククク。女王は袖で口元を隠して笑った。

「早く会わせろ!」ベンケイがれる。

 槍先が寄る。

「そこのデカイの──」女王はベンケイをめつける。「怖いもの知らずは命取りだぞ」右手を挙げ、ひらひら振った。

 広間を巡る大窓すべてが翳る。城の上空に黒雲が湧き、逆に遠方が雲一つない青空になる。空の色分けが逆転した。

 雨粒が窓を打ち始める、まばゆい光が射すと同時に雷鳴が轟いた。闇に染まった大広間ホールに、燭台の灯りが次々燈る。

「これがワタシの力だ。ここはワタシの国。オマエたちがでいくら強かろうと、では虫けらも同然」肘掛に頬杖をつく。

「違うな。ここは凪沙の国だ。オマエらはそこに生えたカビさ。きれいに掃除させてもらうぜ」

 シュウの宣戦布告が終わらないうちに、ベンケイは音速の世界へ跳んでいた。向けられた槍など気にもしない。つむじ風が吹き荒れた後、包囲の6兵士が倒れていた。首や手足を逆方向に折られている。

 怒りMAXだな、ベンケイ──シュウは舌を巻く。

 頬に負った傷の血を親指で拭って舐め、ベンケイは女王に歯を剝いた。「オバハンよォ、さっさと人質解放しねえと、その首へし折るのに10秒かからねえぜ」

 兵士たちが前進し、親衛隊はソードの鞘を払う。

「待て」女王の一声が広間の動きを抑えた。真っ赤に塗った唇が不敵に笑う。「おどかしたつもりかい、デカイの。オマエたちを潰すなどたやすい。でも、それでは面白くない。まあ、迷い込んできた──ナギサとやらに会わせてやろう」

 女王が命じると、壇の背後に垂れていた臙脂の垂れ幕が開いた。

 角材で組んだ十字架が現れる。そこに鎖で吊られているのは、凪沙だ。

 下腹だけが衣類の残骸で覆われ、丸い豊かな乳房は露わだ。鉄球の口枷に唇を割られ、鉄球を固定する有刺鉄線が顔を巻いている。刺に突き破られた頬から血の筋が流れ、口から垂れた唾液と混じって白い胸を汚している。有刺鉄線は縦柱に固定され、俯くことはできない。

 スペードのQとK、二人の拷問吏がイバラ鞭を手に両脇に立つ。

 いましめられた娘の虚ろな目が、シュウとベンケイを認めて動いた。涙が涸れた目には絶望しかない。

「躰は、まあきれいな状態だ。先ほど腕を斬り落として責めたが、再生は済んだようじゃ」女王は凪沙を見てわらった。

 横で空気が振動し相棒の姿が消えた。ベンケイはキレた。

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