05 国を統べる者


              *


 闇色に赤い血管が脈打つ城壁。悪魔城の不気味さは間近に寄るほど際立つ。晴天の下、吹き抜ける風の爽やかさがチグハグだ。

 外堀沿いに木立の陰を巡り侵入路を探っていたが、あっさり迎えがやって来た。

 草むらから、すっくとウサギが立ち上がる。

「やっと出たかい、ウサ公」ベンケイは口を歪める。

 蝶ネクタイもチョッキも着けていない野ウサギは、偉そうな口をきいた。「オマエたちの居場所はバレてる。コソコソせず正門から入れ」

 取り囲まれていた。ナノセンサーにかからないほど隠密に。

 伏せ置かれたカードがめくれる感じで、トランプ兵の大軍が背後の森に湧き上がる。幾層もなして退路を断つ。

 敵兵数は52で済まなかった。トランプセットは無数に用意があるようだ。ブーステッド二人はため息をついた。

「いくらでも出て来い。ひねり潰してやる」ベンケイは息巻く。

(体力は温存しろ。ここでおっぱじめても、中までたどり着けない)

 シュウは通信で、ベンケイをなだめた。

「お招きにあずかろう、ウサギさん」シュウは生意気な案内係に言った。

「早くしろ、女王がお待ちかねだ。ナギサの拷問ショーが始まる」

「テメエ!」

 ベンケイの腕を押さえた。(今は相手に合わせとけ)

「ウサ公、後でテメエもミートボールにしてやる」

 跳ね橋を渡り大門を通過する。前庭には槍を構えるトランプ兵が整列している。その間を抜けて城内へ。

 兵士が立ち並ぶ通路をウサギは飛び跳ねて先導した。

 敵の多さに辟易する。体力温存をベンケイは納得しただろう。

 大扉に突き当たり、それが内に開く。3階まで吹き抜けの大広間ホールに出た。

 広間の先で緩い階段が始まる。十数段のぼると広い壇になり、中央に黄金の玉座がある。玉座に納まって、ハートの女王が脚を組んでいた。

 壁沿いに兵士、壇への階段両端にはの親衛隊が控える。

 は鎧兜を着けていない。カードの絵柄そのままの衣装だ。剥き出しの顔は、簡素な絵を3Dに変換したように、おそろしく作り物めいて不気味だ。

 女王クイーンは不気味な顔に微笑みを浮かべて迎えた。

 背後で大扉が閉じる。付き添う兵士が左右に3兵ずつ。向けられた槍先は命令一つで串刺しに来る。

 階段の手前で停止を命じられた。

 玉座までの距離──およそ20メートル。

 圧倒的な自信がなければ、ここまで接近を許さない。

 いつの間にか案内ウサギは消えていた。

「凪沙は何処だ」シュウは女王に問う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る