手の側面に超高速振動を発生させる。衝撃波で生じる
カマイタチが死神の鎌のように弧を描き、弧に捉えられた首は目を見開いたまま躰を離れた。
新手の参戦に兵士たちの陣形が崩れた。
斬りつけるソードをカマイタチで弾く。
無重力が生じたようにシュウの躰が宙に浮く。自分の身より高く跳んだ相手を、敵兵は唖然と見る。その頭部を廻し蹴りが水平に薙ぐ。
ベンケイがシュウに気づいた。ゴツイ顔が喜色に染まる。
「アニキ!」勇気百倍し、対する兵士の顔面を鷲掴みするや握り潰した。
挟撃でトランプ部隊は劣勢にまわった。
シュウは樹を蹴って水平に飛ぶ。手刀とキックで圧倒する。
ベンケイは右腕を振り廻し、敵兵の首を巻き込んで叩き折る。
数分後、トランプ隊は全滅していた。
二人のブーステッドマンも、さすがに肩で息をしている。
敵戦力がトランプの形式なら、残り兵は32という事になる。初戦は突破できたが、本当にこの程度のものか。それとも単にこちらの力量を測っただけか。
「やっぱ来てくれたんスね」ベンケイは額から出血している。「来てくれるって思ってた……」
「オマエの片腕を使えなくしたのはオレだ。責任がある」
「へへっ、何でもいいっスよ」
ボツボツと音をたてて大きな雨粒が落ちて来た。
先の岩場に裂け目を見つけ、雨よけにそこへ入った。
奥行は5mほどだ。大男と並んでも横になれるスペースがある。
城──おそらくAliceの拠点では、ハードな戦闘が待つだろう。強化ナノマシンは疲れを知らないが、宿主本体が疲労すればナノとの同調遅延が起きる。戦闘力はかなり低下する。僅かでも休息が必要だ。
ベンケイは急いているが、躰の事情は理解している。シュウに促され、並んで寝ころんだ。
風が強まり、叩きつけるように雨が降り出した。
「左腕、具合はどうだ?」
「病院で関節のズレを戻して医療ナノマシンの注入受けたから、まあ動かせる程度には」ゆっくり肩を廻してみせる。「利き腕じゃなくて良かった」
「カツラ ツトム……桂 勉って書くのか?」漢字を尋ねる。
名前を言い当てられて、ベンケイは目を丸くした。モニター上の名前表示に思い至り納得する。そのとおりと頷く。
「だから、ベン、ケイか」
体格にピッタリじゃないか。
「ここまでして鷹峰 凪沙を救おうとする理由は何だ? 幼なじみというだけじゃないだろ」
ベンケイは仰向いたまま、長い間岩天井の薄闇を見つめていた。そして、ボソリと語り始めた──
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