「ワタシの、たった一人の娘なんだ……」
「ECHIGOYAさんが大きくなる陰で、潰された家族がありましたね」
唯一隠しおおせなかったスキャンダルだ。ある中小企業が開発したIT特許を横取りし、逆に盗用の罪を着せて倒産に追い込んだ。開発者でもあった社長は精神に異常をきたした。
当該特許を起点にしてECHIGOYAは飛躍し、国際市場に現在の地位を築いたのだ。
「一家心中で亡くなった男の子は幼稚園児だった。そこも一人っ子でしたよ。表に出たのはその一件だけですが、ECHIGOYAさんの人柱は数えきれないと聞きます。彼らも慈悲を乞うたのではないですか?」言わなくてもいい事を言う。知れたらチーフに大目玉を喰らうだろう。
動く音がした。首だけ曲げて見る。
ECHIGOYAのCEOが土下座していた。クッションフロアに総白髪を擦り付けている。
「じきに凪沙は苦しみだす。見ていられない。耐えられない。効く薬はないんだ。助けられるのはキミだけだ」呻くように言う。
高校生だったシュウの目前で家族が惨殺された時、この男は黙ってそれを見ていた。無表情で。
命令したわけでも手を下したわけでもない。だが、その場に居た。後方に居るだけで、止めてくれなかった。ボスの意向に口を出さなかったからこそ、今の地位があるのだ。
突入してきた特捜部によって、シュウだけが命を取り留めた。精神が壊れたまま特捜部の庇護下に置かれた。その特捜部がゼロ課の前身だ。
生き残った小僧の金銭面を、バレバレ承知の匿名で鷹峰は支援してきた。贖罪の気持があったかどうかは知らない。ただ、将来兵隊に使えるとは思ったはずだ。この度の事態など想像もしなかったろうが、担当にシュウを指名してきたのだ。
16年ぶりの再会。シュウは姓名ともに変えていた。お互いが初対面を装った。今さら、という気持がシュウにはある。
鷹峰の願いを振り切って特別病室を出た。ドアが閉じる直前、世界を動かせる男の慟哭が追いすがった。
外で待機する黒服二人は、何も聞こえないふりで立ちつくしていた。
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