混乱した。そんな凶悪なヤクを何故に使わせる?

 凪沙は潮原しおばら組の預かりだ。本人は好き勝手に逃げ廻っているつもりでも、潮原組の掌の中だ。さっき叩きのめしたも潮原の絡みだろう。

 鷹峰 政虎は潮原に娘を預け、娘の頭が冷えるのを待っている。潮原はボランティアを装いながら、しっかり鷹峰に恩を売っている。

 麻薬VRDで遊ばせても、せいぜいmediumランクまでじゃないのか。

 潮原組のバックを意識する。潮原は所詮地回りだ。巨大な組織の意向が背後にある。ゼロ課のセキュリティを破るほどの組織だ。

 二、三の可能性。その内、一つだけが確実に残った。

 ……アイツか。アイツしか、いない。

「Aliceは何回やった?」シュウは問う。祈るような気持だ。

「……八回目。今度で」すがような目で答が来る。

「最後にんだのは、いつだ?」

「えっと……六日前」

 顔に出さずにシュウは絶望する。断薬限界の四回を超えている。四回でさえ断薬の苦痛は耐えがたいと聞く。

「特別の断薬剤があるんだって。だから心配ないって言われた。すぐそれを買うよ」タバコを潰し、手首の情報端末リストデバイスで何処かにアクセスしようとする。「そう言われたんだ」

 室内が通信不能のことを思い出して立ち上がった。「外へ出なきゃ」

 凪沙の手を掴んで止めた。「そんなものがあるなら苦労はない。オマエは騙されてる」

 ──ECHIGOYAの一人娘は人質に取られたわけだ。

「離してよ! 断薬剤買うんだから」シュウの手を振り払おうとした。が、急に脱力した。現実の恐怖を受容したのだ。

 凪沙はいきなり短いスカートに手を入れてショーツを引き下ろした。足首から抜き取る。テーブルを廻ってシュウに跨がってきた。「しよ」

 手近な本能に溺れて恐怖から逃げようとしている。

 シュウは抱きしめて少女の行為を封じた。「おちつけ。何とかする。Aliceを売るヤツを信用するな。今から一緒に病院へ行こう。オマエには世界のECHIGOYAがついてる。心配ない」

「明日の朝までに、Aliceをまないといけない。そうしないと苦しくなる。まなかったら、どうなるの? アタシも動画の人みたいになるの?」嗚咽が混じる。「いやだ。坊主にされるの、いやだ。あんなの、いや。助けて……」

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