02 酒場
少女の名は、
鷹峰 凪沙は先に立ち、男の手を曳いていた。曽根崎の入り組んだ路地を進む。着いた先は半地下の洋風居酒屋だった。
オールドアメリカンな奥深い店。黄ばんだ照明に、使い込まれたカウンターが飴色に光る。
客はふた組。カウンター中央に中年カップル、テーブル席に学生風の男女5人が陣取っていた。
スタッフは二人。グラスを磨いていた中年バーテンが凪沙を見て会釈した。すかさず目を移し連れの男を値踏みする。
シュウは場を把握した。人物、その配置、設備、逃走経路……反復を重ねたトレーニングが習性になっている。
客が帰った後のスツールが一脚、カウンターの整列からとび出していた。
店内を見渡していると、腰をスツールにぶつけてしまった。
「すみません。だいじょうぶですか」テーブルへ皿を届けたボーイがこちらへ寄ろうとする。
シュウは手を上げて制し、自らスツールを戻してやった。
「申し訳ございません」バーテンが頭を下げる。
凪沙はちょっと怪訝な顔をした。
「いつものね」バーテンに言い、奥へ進む。
突き当りは表示なしのドアだ。
常人では感知できない微音を捉える。ドアロックの外れる音。バーテンがリモートで解錠したのだろう。特別室らしい。
厚手のドアを通ると、ガランとした室内には飾り物一つなかった。木目の壁に囲まれた、長辺3メートルほどの小部屋だ。長ソファが向き合ってローテーブルを挟んでいる。
数分後、アイスバケットに突き刺さったシャンパンとナッツの皿が届いた。
ボーイが去り、ドアに錠が下りる微音がする。
「室内のセキュリティは万全。リラックスしていいよ」おしぼりを使う。「あ、一時間は今からだからね」
盗聴、通信傍受、すべて不能の部屋だ。ドアの造りでわかる。秘密会議に使うのだろう。装飾が無いのは、カメラやマイクを隠す死角を作らないためだ。
「いい隠れ家を知ってるな」
凪沙は口を歪める。「鷹峰から逃げ廻ってるからね」父親を姓で呼ぶ。
逃げ廻るのは警察からもだ。
少女の周りで裏の連中が暗躍している。連中にしてみれば、政財界の実力者に恩を売れる。おいしいハナシだ。超優良株を保有しているようなもの。
ピンクメッシュの髪が払われ、蝶の
十五歳の顔が現れた。内に蔵する美女の種子が萌芽を待っている。だが、まだ中学生だ。学校へ行っていれば。
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