第4話 お手上げ
体感3階床分ぐらいの時間をエレベーターで過ごしただろうか。ドアが開くと全面白い壁に覆われた空間が現れた。地上の荒れ具合と比べて、此処は掃除が行き届いているように綺麗だった。
「本来であれば、私1人では来れたものじゃありません」
「どういうことだ?」
「実験を繰り返した結果、この国は、危険な生き物たちを生み出してしまいました。その1つが昨夜、壇ノ浦さんが遭遇した人間のカタチをした怪物です」
「……その1つってことはまだまだあんなのがいるのか」
役人と壇ノ浦は床に書かれている矢印の方向へ導かれるように進む。
「いつでも戦える準備をしていてくださいね。施設が放置された間に、脱走した生物が何体かいます。だから私1人で来れたものじゃないと言ったんです」
「チッ、ボディーガード代わりかよ」
「すみません、壇ノ浦さんに対して予算が下りても私には下りないので」
NB21という表札が書かれた扉の前で役人が立ち止った。
「ここで、あの怪物は生まれました」
中に入ると、ベッドと仕切りのカーテン、それに小さな丸テーブルが置かれていた。まるで病院の個室だ。
「10年前、ここに心臓の病気を持った女子高生が運ばれました。彼女は余命半年と宣告を受けたのです。家族は若くして他界し、唯一の親族であった叔母は認知症を発症し、自分の孫の顔すら覚えていませんでした。そんな彼女は、研究対象としてはピッタリ逸材でした。終末医療という名目で此処に運ばれた彼女は、再生細胞の実験に利用されるようになりました」
役人はベッドに近づくと、シーツに触れてから腰をゆっくりと下ろした。
「最初は開発途中の試薬が上手く作用し、彼女の延命処置として良い成果を生み出しました。しかし、経過観察中にその薬品がとある副作用を引き出すことが判明しました。——それが、自己増殖です」
「あの分裂するヤツの正体か」
「はい。心臓の病を多重の細胞分裂により克服し、およそ3gの質量から同一個体を生成することが分かりました」
「それで、銃弾がぶち抜いた肉片から増殖したってわけか」
「彼女を倒す方法はいくつかあります。水に沈めて窒素させる。あるいは塵になる程度に切り刻む。高熱で溶かす。どれも分裂体と一緒に行わなければ意味がありません」
「だったらその情報を最初から教えてくれよ。分裂せずに殺せただろうが」
「……そんなこと知っていても意味が無かったんですよ」
「どういうことだ?」
「彼女は既に、分裂体を100体以上生成しているのですよ」
<あとがき>
わあぁ
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