第3話 国立人体科学研究所


「どうなってんだァ!?」


 人知を超えた出来事に思わず車の外に出る。何が研究所から逃げ出した女子高生だ。ただのバケモノじゃねえか。ショットガンを構えてハンドグリップを引く。薬莢が排出され地面に転がった。


「喰らえ!」


 トリガーを引くと肉片と共に、再び女子高生が吹っ飛んだ。――だが、やはり生きている。続けて3発撃って女子高生の肉体はボロボロになり、肉片も辺り一面に散った。だが、その肉片は1つ1つが自己増殖をして鍾乳洞のつらら石を逆さまにしたような形で大きくなっていく。人の姿になるのに時間はかからない。


 やがて女子高生の本体が這い上がるように立ち上がり、虚ろな目でこちらを睨む。しかし反撃するつもりはないようで、突っ立ているだけだ。


「おいおい、こりゃどういう……」


 その時、電話が鳴った。相手は役人だった。


『あ、どうも。写真を拝見しました。今はどんな状況ですか?』


「どんな状況もクソもあったもんじゃねえ! 鉛玉ぶつけても死にゃしねえ! 飛んだ肉片が増殖もしてるし、一体どうなってる!」


『あー、それは困りました。想定しうる内の最悪な展開です』


「どういうことだ?」


『詳しくはまた後で説明します。ここは一時退却してください。合流先はすぐに連絡しますので』


 殺し屋が人を殺せなくちゃ意味がない。ここは役人の言うことに従う他なかった。女子高生を一瞥すると車に乗り込み、役人から送られてきた住所へと向かった。




     *



「……国立人体科学研究所」


 大層立派な名前の付いた巨大な施設のようだが、その景観は見るに堪えない。建物のコンクリートはいたるところが零れている。ツタや雑草が生え放題。10年近くは人の出入りが無いのではなかろうか。


「いやぁ、壇ノ浦さん! ご無事でなによりです」


 軽トラでやって来た役人はペコペコと頭を下げながら車を降りた。


「あんなの死にかけた内にも入らねェよ。それよりも、あのバケモンは何なんだ。此処に呼んだ理由も説明するんだろうなァ!?」

 

「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。説明は、この施設の中で一緒にしますので」

 

 役人は錆びた鉄製のゲートの鍵を開ける。ギイィィと重い音を立ててゲートを開き、役人と壇ノ浦は施設へと進んだ。




     *


 施設の中は薄暗く、役人が持ってきた懐中電灯が無ければ足元に落ちている瓦礫に躓くぐらいだった。


「それで、この施設は一体何の研究をしていたんだ?」


「この施設は国立人体科学研究所と言います。それは入り口にも書いてありましたね。国が建てた人に関するあらゆる研究を行っていた施設です」


「あらゆる研究……それは非人道的なことも含まれていたのか」


「その通りです」


 役人は素直に頷いた。


「表向きは人間工学の研究や、スポーツ理論についての研究を行っていましたが。しかしその裏では、倫理を外れてこそ人類の進歩あり、という信念のもと国民には到底理解されないであろう研究が行われていました」


「……話が見えてきたぞ」


「それは結構。では、地下にある目玉として研究されていたものをお見せしましょう」


 エレベーターの前で立ち止まった。呼び出しボタンの下にある黒い枠に、プラスチックカードをかざす。すると、デジタルインジケーターに『認証しました』と文字が表示され、ドアが開いた。


「電気通ってたのかよ」


「このエレベーターと地下施設は屋上の太陽光発電の電力で賄われているんですよ」


 エレベーターに乗り込むと扉が閉まり、ガタガタと不気味な音を立てながら下に向かって動き出した。




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