第2話 殺したら増えます


「少女にはGPSを付けてあります。おおよその位置は把握できているので後で情報を共有します。それではご武運を」


 役人は腫れた右頬を摩りながら夜の繁華街に消えていった。壇ノ浦は近くのコインパーキングに止めていた黒のセダンに乗り、ナビ代わりにスマホをフロント部分に置いてGPS信号が示す場所に向かう。


 辿り着いたのは、閑静な住宅街だ。夜の静けさがどことなく不気味さを生んでいる。


 壇ノ浦は懐から白い箱を取り出す。開け口を叩いて出てきた一本の紙煙草を加えた。後はライム色の使い捨てライターで先を炙ってやる。


「面倒な仕事を受けちまったな」


 車の中で1人、煙と共に弱気な言葉を吐き出す。


 壇ノ浦の職業は【殺し屋】。それも世界を股にかけ、これまでに三百人以上の人を殺してきた。だが、歳を重ねて今回の仕事を最後に仕事を引退するつもりだったのだ。生まれ故郷である日本に戻り、有終の美を飾れるもんだと思ったがそうもいかなそうだ。


 車のサイドブレーキ近くに置いた一枚の写真を手にする。そこには、おさげ髪の田舎者っぽい女子高生が証明写真を撮影したかのように写っている。


 GPS反応が近い。


 写真を持ち上げて、前方に目を遣る。すると、写真とそっくりの顔した女子高生が車のライトに照らされて近づいてきた。眩しそうに眉をひそめている。


「そんじゃあ、始めますか」


 座席左横のレバーを引き、後ろに倒れる。後部座席に置いてあったポンプ式にショットガンを右手で取り寄せると再びレバーを引いて身体を起こす。


「お嬢ちゃん」


 運転席の窓から身を乗り出し、女子高生に声をかける。彼女は何事かと不安そうに脚を止めた。


 車のライトにより、女子高生側からはショットガンを携えた壇ノ浦のことが見えずらい。焦ることもなく、冷酷にトリガーを引いた。


――ダンッ!


 乾いた銃声が周囲に反響し、肉片が飛び散り、質量のある鈍い音が耳奥に残った。これで近くの住人が外に出てくる可能性があるだろうが、後のことは役人がどうにかしてくれる。バックアップがどうのと言っていたが、基本的には後始末のことにしか役立たないのだ。


 血だまりが出来た地面と、直前まで女子高生だった肉体が、ライトに晒してスマホで撮影する。最後に役人へ写真を送ると、現場を離れる為にサイドブレーキを解く。


 後は役人と事後処理について話し合う簡単な仕事。――そのはずだった。


 死んだはずの女子高生がこちらを睨んで立ち、飛び散った肉片が自己増殖を繰り返し、人の身体を作り出そうとしていた。


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