8話 - Ⅱ
「……ン、アーレーン!」
「んっ?」
「ん、じゃなくてさ、もうとっくにお昼だよ?」
「え、ああ、ホントだ」
「どうしたの? 何か最近、浮かない顔が多いけど」
黒斗は、この会話の展開を喜ばしくないと思った。
この流れは、嘘で誤魔化すと後々に響く。と、彼は経験則で知っていたからだ。
故に、この場を凌ぐために必要な言動は嘘ではなく、別の本音を用意することだった。
「そうかな。多分、慣れないからだよ」
「学校に?」
「というか、この教室の雰囲気に、かな」
ロットの顔が、途端に暗くなる。
「……だよね」
曇った表情のまま、ロットは無言で立ち上がる。
「早くお昼食べちゃおうよ。アレンもどうせ購買でしょ」
「まあ、一応」
黒斗の脳裏に、転校初日に見せたロットの逃避行がリフレインする。
あの時の彼と一緒だ。
いや、彼だけじゃない。この教室にはそういった空気が充満している。
原因は分かる。〝あの二人〟に違いない。
学校という治外法権が許される特異点で、散々人を研究してきた黒斗である。
この雰囲気のパターンは『独裁型』だと、早々に見当を付けていた。
独裁型というのは、彼が勝手に作った言葉なのだが、要するにクラスの重要人物の胸三寸で暗黙の制度が決まってしまう、という型のことだ。
他にも『村八分型』、『秩序型』、『嫉妬型』等のカテゴリが存在する。
村八分型は、黒斗曰く最も平和ないじめの形であり、文字通りいじめの対象が村八分に遭うだけに留められる。
次に秩序型だが、これはいじめの代表例として挙げてもいいのではないかと、黒斗は思っている。
簡単に言えば、このパターンは『クラス内の権力者たちを中心とした、クラスの漠然とした総意』――これはつまり空気のことなのだが、その空気という名の秩序を保つために、誰かがいじめの対象になる、というものだ。
ある意味、オメラスの地下牢に閉じ込められた子供のようだが、そういった生贄を欲するのが〝秩序〟なのだということも、言葉は悪いが、被害者たちは重々理解せねばなるまい。
つまり秩序型から脱するには、今の秩序を壊す勇気と、その後の秩序を作る風潮が無ければならないのだ。
黒斗の率直な感想として、いじめの対象者で武勇に秀でた者は少ない。
そのスキルがあれば、秩序再建も幾分楽なのだが……。
そもそも、その能力を持っていて、尚且つ周囲と交わることに興味の無い者であれば、自然と『村八分型』になっていくのが常道だろう。
最後に嫉妬型だが、これは特に女子グループ内のいじめに多く見られる。
有り体なのは『恋愛』や『身分』から来る嫉妬心によるいじめだ。
尚、ここでいう身分とは、外見のステータスや、クラス内、あるいは学校内でのカーストの位置を指す。
〝いじめを解決するための確約されたテンプレートなど、この世には無い。
あるとすれば、それは盲信か何かによって洗脳されているだけだ。
逃げることを美徳としない論者は多いように感じるが、それは果たして如何なものか。
これは黒斗の持論だが、何も全日制にこだわらずに、通信制や定時制、それにサドベリースクールという方法だってあるのだし、学校に行くのが苦痛で、尚且つ『卒業』という『箔』のみを求めるのであれば、高卒、または大卒認定試験という方法だってあるだろう。
わざわざマジョリティに固執し、それを無理強いさせるのは、クレイジーでナンセンスと言わざるを得ない。
青春を謳歌することも学校の役割……なるほど。随分とドSな美徳だ。
中には消費期限が遥か昔に過ぎた、腐ったリンゴもあるというのに。
腐敗という木から生えた毒入りの果実を食べたところで、耐性が無ければ、死、あるのみだ〟
――さて、少し脱線してしまったので、今黒斗が現在進行形で対峙している独裁型に話を戻すとしよう。
これには秩序型と似ている面もあることはあるのだが、決定的に異なる点が一つだけ存在する。
それは、秩序型は複数で行われるため『漠然とした総意』が必要になるわけだが、独裁型の場合は『一人の意思』だけで『総意』の舵取りが出来てしまう――という点だ。
(傍から見れば優等生の腹黒帝王。そしてその隣にはいつも、脳筋の側近が護衛役に付いている……。こいつは質が悪いな)
その二人を一瞥し、黒斗は再びロットに視線を戻す。
おそらく彼は、あの二人の近くで『教室の雰囲気』に対する話題をすること自体が問題なのだと察したのだろう。
せっかくの昼休みだ。わざわざこの胸糞悪い空間に居残り続けることもない。
黒斗は「飯でも食いに行くか」と言ってから席を立ち、ロットと共に教室を後にしようとドア付近まで向かった。
「ソーマ君っ!」
黒斗が開けようとしたドアの向こうから、一人の男子生徒が、何事かと思いたくなるような慌てっぷりで、騒々しく教室内に入ろうとする。
黒斗は露骨に迷惑そうな表情を取っていたのだが、男子生徒に気にする素振りは一切見受けられず、彼はそのまま黒斗の横を通り過ぎて行った。
そんな男子生徒を目で追いかけ、黒斗は――ああ、そういえばクラスにあんな奴いたな――といった具合に、冷めた感情を一瞥に込めた。
その男子生徒は相当走ったのだろう。
かなり息切れを起こしていて、さっきから肩が上下を繰り返している。
おまけに様子が……ハッキリ言って気持ち悪い。あれはヤバい奴の目だ。
そんな彼の前にはソーマとディビットがいるのだが、二人とも、それとなくシカトしていた。
先ほどまでは、文句の一つでもぶちまけたい衝動に駆られていた黒斗だったが、少々気が変わった。
このシチュエーションは、Ⅲ‐αに根付く膿の一端を拝めるチャンスかもしれないと、直感に引っかかる突起を感じたからだ。
損な役回りになった男子生徒には同情するが、しかし、これを見逃すわけにはいかない。
そう思い至った黒斗は、事の行く末を見届けるギャラリーに徹すると決意し、壁に背中を預けた。
隣にいるロットを横目で見ると、やはりこちらも様子がおかしい。
何かに怯えているようで、下手にその場から動こうとしない。
静観するには好都合だと思いつつ、黒斗は件の男子生徒の方に意識を向けた。
「今、はぁはっ、食堂の座席、確保してきました。いつでも、大丈夫です」
「ふーん。あ、そう」
「いつもの、二階に位置する窓際のテーブル席です。さらに今日は、周りの席も空席にしましたので、周囲の生徒に気を煩う心配も――」
「あのさ」
やや棘のある声で、ソーマは男子生徒の言葉を止めた。
「僕、今日はお弁当なんだけど」
空気が床に沈殿していくような、重たい沈黙。
それが、数秒間続いた。
男子生徒の勢いは完全に失速しており、まるで鳩が豆鉄砲を食ったようだった。
「金曜に言ってたはずなんだけどなあ。ねえ、ディビット?」
「ああ。あと、今日の朝一にも言ってたな。ったく、オレは購買だってのによ。美味そうなもん食いやがって」
「悪いね」
そう言って、ソーマは自分の鞄から弁当箱を取り出した。
箱を包む布を解き、蓋を開けると、そこには如何にもセレブらしい食材の数々が、所狭しと並べられていた。
「じゃじゃーん」
「うっわ。マジで美味そうだな」
「そんな恨めしい目で僕の弁当を見つめるなよ」
「なあ、一個くれよ。こんだけあるなら、ちょっとくらい減っても訳ねえだろ?」
ソーマは悩む素振りを見せていたが、それが『ポーズ』であることを、嘘の常習犯たる黒斗は早々に見抜いていた。
蚊帳の外に追いやられてしまった〝彼〟は、かなり居心地が悪そうだが、如何せん、ソーマたちは無視を決め込んでいる。
「全く君ってやつは。少しはデリカシーを持ってほしいね。まあいいけど、この食材の対価は高く付くよ?」
「へへ。今度家に来いよ。高いジュースでも空けてやるさ」
「なるほど。それは楽しみだな。期待しているよ」
「おう。任せとけ」
「あ、あのぉッ!」
誰も受け止めようとしない言葉は、最終的には口にした本人をも孤独にさせる。
誰も関わろうとしない。
関わった途端に巻き添えを喰らうリスクを知っているから。
誰も見ない。
目を合わせたところで相手は救われない。
自分も苦しくなるだけ。
この場にいる全員が――あまつさえ〝勇者〟ですら〝傍観者〟の始末。
極度の緊張状態に見舞われていた男子生徒は、自分が思っていた以上の大声を出してしまい、結果、身体のバランスを崩し――ディビットのフォークから、高級そうなムニエルが落ちた。
ぴちゃっ、という音が鳴り、綿埃がソースに付着する。
「あッ、あぁあっわあああああああ!」
絶叫を通り越して、それは最早、断末魔の叫びに等しかった。
あまりの声の大きさに、教室の角にいた黒斗でさえ、思わず顔をしかめてしまったほどだ。
報われようがない、救いようのない空間にあるのは、排他される末路のみ。
黒斗は周囲の人間の顔面から、血の気が引いていくのを感じた。
クラス全体が真っ青になっていき、だからこそ、二人の怒りがより強調されてしまう。
一人は露骨に激怒し、もう一人は無言の恐怖を醸し出す。
「おい、テメェ」
最初に沈黙を破ったのは、ディビット・ウェロー。
手に持つ食器を凶器に変えて、彼は男子生徒の胸倉を掴んだ。
「何してくれてんだよ。なあ?」
「あ、ああぁあぁああああ!」
「あーあー言ってんじゃねえよ! このクソ野郎!」
頭突きをかまし、男子生徒の頭部が激しく揺れる。
「あ、あ」
「あ、しか言えねぇのかテメェは。喘いでんじゃねえよ、気色悪ぃな」
「あぁぁごめんぁあぁさああぃぃぃ」
再びディビットが頭突きを入れて、男子生徒の鼻から血が飛び出る。
さらに彼は拳を何発も顔に叩き込んで、男子生徒を片手で持ち上げ、床に投げ飛ばす。
追い打ちをかけるかの如く、トーキックを連続でぶち込み、
「ごああああめなあああぃじゃおやうあうぃ」
「何言ってんのか分かんねえんだよ、このクズ野郎。ごめんなさいもちゃんと言えねぇのか! ああっ!?」
凶暴を絵に描いたかのような蹴りが、男子生徒の溝内にめり込む。
涙と鼻水と血で、もはや原型を留めていない腫れぼったい顔面を見て、黒斗は思わず目を閉じ、その瞼すら背けた。
(……耐えろ。今までもそうやって、オレは〝無力化〟してきただろうが!)
これよりも酷い光景だって見てきた。今更、負抜けたことを言うな。
そう自分に言い聞かせ、黒斗は眼を開ける。
だからといって、別に世界が一転するわけではないが、気持ちの整理は着いた。
「あーあー。汚れちゃった」
埃付きムニエルを指で摘んで、ソーマは横になって倒れこんでいる男子生徒の正面にしゃがんだ。
「食べ物は大事にしろって、これ常識でしょ? 違うかな? ねえみんな、どう思う?」
くるりと首を後方に向けて、誰かに問いを投げるソーマ。
ふざけやがって、と黒斗は思う。
そんなもの、最初から答えが決まっているようなものじゃないか。
NOと言えば敵。YESと言えば、おそらく理由を追及してくる。
ソーマ・ウナクとは、きっと、そういう人間だ。
「ねえ? 君は、どう思う?」
不運にも視線がぶち当たってしまった女子生徒。
彼女は唇を、わなわな、と震わせながらも、明瞭に「大事、だと、思います」と答えた。
「どうして?」
「だ、だって、食べないと、生きて、いけない、から。だから、大事です」
ソーマは満足そうに微笑み、再び男子生徒の方に首を向け直す。
彼は聞き耳を立てる仕草をすると、しばらく黙り込み、
「反対派の意見が出てこないってことは、僕の意見が勝ったってこと、だよね?」
勝ち負けもクソもあるか。
どこからともなく湧き出す憤怒の激情を、黒斗はしかし、誰にも悟られないように嚙み千切った。
「残念。誰も君を肯定しない。つまり君の負けだ」
ソーマは、摘まんだムニエルを男子生徒の口に押し当て、無理くり捻じ込もうとする。
「ほら、食べてよ? ねえ、ねえってばあ。みんなが大事だって、さっき言ったばかりじゃないか? ほらほら、口を開けて…………」
「早く食えよ」
男子生徒の悶え苦しむ声が黒斗の耳に入り、粘着質な感覚が心を侵していく。
どんどんエスカレートしていく、ソーマの挙動。
背中に、ぞわぞわ、とした不快感が生じ、それを振り払うために黒斗は身じろぎする。
ふと、肩に圧力を感じ、彼は横を向いた。
ロットだった。今までの彼からは全く想像も付かないような必死な形相で、眼は若干潤んでいる。
そして、その眼差しには『行くな!』という強いメッセージが込められていた。
どうやら彼は、僅かに身体を動かしたことを、助けに行くために立ち上がった蛮勇と誤認したらしく、黒斗は改めて、このクラスの深刻さを思い知る羽目になった。
五寸釘のようなロットの目力は筆舌に尽くし難く、その迫力に丸め込まれてしまった黒斗は、彼の静止に大人しく従い、再び壁に背中を押し付けた。
「ほら、食えよ! 食えって言ってんだろうがよ! なあ、食えよ。口開けて食えよ、早く食えよ、さっさと喰えよ!」
刹那、黒斗の感覚器官に、何か今までとは異質の〝圧〟が流れ込んできた。
ソーマを中心に、靄のような空間の歪みが生じている。
(っ?……なんだ?)
異質ではあるが、未知ではない。この感覚には覚えがあった。
まさかと思いつつ、彼は両目に魔力とゼロを定着させて、肉眼を強化する。
霞の持つエネルギーが、あまりにも微弱なためか、いつも通りのさじ加減で強化してもまだ足りず、ゼロによる補正を掛けたことで、ようやく鮮明になってくれた。
直後、彼は『視ずに済むなら視たくなかった』と後悔したが、先に立たないものに文句を言っても仕方のないこと。
ドロッ、とした液体洗剤のような粘度を伴った〝魔の力〟が、ソーマの目から涙のように溢れ、口からは吐瀉物の如く吐き出されていた。
まるで怨念を濃縮還元したかようなマゼンダ色の魔力が、男子生徒の目と耳に流れ込んでいき、ソーマが『食えよ』と発する度に、流れの勢いが増している。
黒斗は男子生徒の体内に入っていく魔力の詳細を知るために、ゼロに備わっている補助機能の一つ、魔力解析モードを実行した。
(あれは!?……間違いない。洗脳系魔術だ。もっとも、素人に毛が生えた程度のオレでさえ、素人臭を感じるレベルだけど。でも、ソーマ・ウナクは確か【空魔】のはずだぞ。どうなってやがる)
空魔とは『体内に流れる魔力を操れない者』もしくは、『生来の魔力量が極端に少ない者』を指す言葉だ。
確かに、ラフティのデータバンクに保管されているソーマ・ウナクの情報には、彼が空魔だと記載されいていた。が、現に今、彼は黒斗の目の前で魔力の体外放出をしている。
おそらく、こんな気色の悪い光景を目の当たりにできるのは、このクラス内に於いてただ一人、石杖黒斗だけだろう。
ラフティからは事前に、プレクトンエコールには空魔しかいないと聞かされていたものの、念には念をと思い、彼はクラスメイトたちを一望する。リアクションから察するに〝視える人〟はいない。
ゴットバー国民の空魔比率は、全体の9割以上に相当するのだから、当然と言えば当然なのだが……。
(それにしても妙だな。ソーマ・ウナクは、魔力コントロールが全くと言っていいほど出来ていない。本能の赴くままって感じだ。まさかあれ、無意識でやってるのか)
無自覚のうちに魔術発動。そんなこと、本当にあり得るのか?
もしかして、第三者がソーマに洗脳を施して、わざわざ魔術を?
……いや、それはない。
仮にも首相の息子なんだ。そんな『ちゃち』なことに利用するとは思えない。
――と、黒斗がそんな考えを巡らしていると、ゼロから更に詳しい解析結果が回され、
長方形のウィンドウがいくつか展開されていて、黒斗はその中の一つに焦点を合わせて、拡大表示させた。正面に提示されたのは、術式の構造解析結果。
(基本もセオリーも秩序も無い。偶然の産物として出来ちまったって感じだな。でも――)
そう。それが『魔術』であることを、疑う余地などなかった。
黒斗はゼロの表示を全て消して、視界をクリアにする。
ソーマの支配下に置かれた男子生徒が、逆らうことを忘れて、口を大きく開け始めていた。
「ようやく食べてくれるんだね。まあ、僕の言う通りにならないことなんて、絶対に有り得ないんだけど、さ!」
ソーマがムニエルを喉奥に突っ込む。男子生徒は喉を抑えてもがき、〝生〟を求めて足掻く。
生々しい命の躍動を、しかしソーマは傲慢に微笑み、楽しそうに立ち上がる。
横たわったままの男子生徒は、すでに悶絶しており、ソーマはそんな彼を邪魔そうに蹴飛ばした。
「はあ。なんか、ちょっと疲れちゃったな。ねえ、誰か飲み物買って来てくれない? 3ポイント上げるから。あ、あとこの彼もどけて。こっちも3ポイントね」
『ポイント制か』――などと、瞬時に言葉の意味を理解してしまった黒斗は、ある意味、すでに人間の邪気に侵食されているのかもしれない。
ソーマの号令が放たれると、皆、『我先に』と声高々に挙手をして、『我こそは』と言わんばかりに、がたがたと机に悲鳴を上げさせながら起立していく。
僕がすぐに退けるよ。床もサービスで拭いとくから。
お前はこないだミスしただろ。俺の方が迅速で正確にやれるね。
じゃあ、私が飲み物買ってこようか?
っざけんな、メス豚。あたしの方が先だろ? ね、ソーマ君!
ソーマの周りに群がる生徒たちによる、怒号と懇願の叫び合い。
目も当てられない惨状に、黒斗は顔を俯かせて、静かに鼻から息を吐いた。
他人より優れていると示すために、他人を蹴落とし、詰り、罵る。
そして妬み妬まれ、恨み恨まれることで発生した負の渦。
その渦に巻き込まれた人間は、マインドコントロールによって冷静な判断力を失い、心まで麻痺してしまう。やがては人を傷つけることも厭わない――
〝思い遣り〟なんて言葉がクソの役にも立たない〝戦場〟と化すのだ。
「1ポイントで、100ラッカルなんだ」
「え?」
「酷いだろ」
ボソッと、今にも消えてしまいそうな声で囁き、黒斗が顔を上げた時にはもう、ロットは他人を装うための方向に顔を向けていた。
【ラッカル】とはゴットバーに流通している通貨のことだ。
100ラッカルは国内における最高額の貨幣なので、日本で言うなら1万円札に相当する。無論、円と比較した為替レートなどあるはずもないので、具体的な価値は判断しかねるが、
「あー……そうだね。どうしようか。迷うね」
喉を上下させる生徒たちと、値踏みするかのようなソーマの眼差し。
教室内はやけに静かだったが、方々から来る期待感の揺れは凄まじかった。
一通り品定めを終えたらしいソーマは、少し勿体ぶった態度で周囲を焦らし、その沈黙を弄び、嬲り、味わう。
そして――
「うん。じゃあ、今回はロット君
※作中で『今の円相場』と描写しましたが、厳密に言うと、これを執筆していたのが2017年のことになりますので、現在の状況とはかなり為替レートが変わっております。文章の流れを大事に思い、当時のまま載せることにいたしました。予めご了承ください。
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