l'entracte

幕間

 魔法空間という名の研究所の中。

 一匹のマッサーフォリオンが、白衣を着た男の傍に歩み寄っていた。

 男はオフィスチェアに座ったまま片手を挙げ、友人を歓迎した。


「やあシルバ。色々とありがとう。やっぱ君がいないと困るね」

「主よ。あれで本当に良かったのか」

「ん?」

「とぼけないでくれ。かれこれ四十年以上、我は主と共にいるのだ」

「……ははは。かなわないなあ、ほんっと」

「なぜ本当のことを言わなかったのだ。あの時、全てを話してもよかったのでは?」

「ゼロが、実はまだ未完成だったことかい?」

「それもあるが、そうではない。主、我が言いたいのは――」

「シルバ」

「?」

「少し、晩酌に付き合ってくれ」

「まったく、魔獣に酒を飲ませるとは。しかし、我が主の願いだというのであれば」

「悪いな」


 差し出されたグラスを、魔獣は尻尾で絡めとった。

 瓶口から漏れる、酒の音。

 乾杯の時に交わされる、小気味よいガラスの音。

 溶けた氷が、崩れる音。


「いつか、話すさ」

「……主」

「ん?どうした?」

「またハイボールか。嫌いじゃないがな。我は焼酎の方がいい」

「相変わらず渋いな~」


 そのあとに続いたのは、幸せそうな笑い声。

 そして、ささやかな談笑だけだった。

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