第1話 暑アツかくれんぼ

 空気はムシムシと暑く、そこらじゅうでセミが騒がしい合唱をしている、初夏のとある日。西園寺家のリビングには、4人が暑さでうなだれていた。



 あおい「あー…暑い…」

 まな「ほんまそれな…あーもう無理…」

 さくら「扇風機の風もうちょっと強くしてー…」

 かずさ「…(撃沈)」

 さくら「お兄ちゃん?大丈夫?」

 かずさ「…あっ、ごめん。よいしょ…」

立ち上がってボタンを押す。より強い風が吹き、4人は「はぁぁぁぁぁ〜…」と声を漏らした。

 今日家には彼らしかいない。友達と遊びに行った人、買い物で遠出した人、模試という戦に出陣した人…ほとんどが用事で出かけてしまったのだ。そして暇だったかずさ、あおい、まな、さくらの4人は留守番を任された。みんなが出かけてから数時間が経ったが、まだ時刻は朝の11時くらいである。

 あおい「どうしよう、めっちゃ暇」

 さくら「このままずっとはいられないよぉ…」

 かずさ「………」

 まな「お兄ちゃんもう目が死んでない?」

エアコンもあまり効かないこの地獄の空間で一日中過ごすのか、と全員が思い始めた。

 とそのとき、

「…なーなー、せっかくだからなんかして遊ぼ!」

突然まなが立ち上がって言った。

「なにするの??」

「うーん…かくれんぼとか?そうだ!かくれんぼしよう!」

自分自身の提案ですっかりはしゃいでしまった。まなの遊びのスイッチが入ったようだ。

「えー、あおいあんま動きたくないんやけど…」

「隠れとったら動かなくて済むって!ほらほら!」

「もーしゃあないな…涼しいところに隠れよ」

「…まあ暇つぶしにはなるな」

少し不満げだが参加すると言ったあおいと、暑さに潰されるよりマシだと思ったかずさを見て、まなは大喜びしていた。

 さくら「さくらも隠れる方がいいなー」

 かずさ「俺も。探し回る体力がない」

 まな「じゃあまなが鬼な!ここで1分待つからから隠れてきて!」

 あおい「オッケー。…一番涼しいのどこやろ」

遊ぶ元気はいっぱいの小2と、気温に心身を壊されかけている3人の、おうちかくれんぼが始まった。



 「…59、60!もーいいかーい?」

返事はない。

「あれ?もーーいいかーーい??」

音量が変われど返事はない。

「もぉぉぉぉいいかぁぁぁぁぁい??!!」

…返事はなかった。

「まいっか。探しに行くでー!」

応答を聞くのは諦めて探し始めた。

 まなは探検家のごとく廊下や部屋の中を歩き回る。どーこだー?とお宝を探すように、クッションや服、ぬいぐるみをどかしていく。

「すぐに全員見つけてまうからな!よし、つぎこっちの部屋!」

彼女のやる気は十二分にあるようだ。

 とはいえ、西園寺家のお家は他の家庭のものより一回りも二回りも大きい。なにしろ10人も兄弟姉妹がいるとなると、それ相応の部屋の数が必要だ。そのため、1人で探すには相当な労力を要するだろう。

 そんなことはつゆ知らず、というか全く気にする様子もなく、まなはずんずん歩いて行く。子どもの好奇心?は底なしのようだ。



 かくれんぼ開始から5分後。キッチンにたどり着いた。

「んー、どこだろ…おーい!みんなー!」

次々と戸棚を開けていく。

「あれえ?いないなあ…」

そう呟きながら、シンクの下の扉を開けた時だった。

「うわあああ!!」

少女の悲鳴が響き渡った。と同時に、

「うわっ!」

とこれまた大きな悲鳴が聞こえた。


「あー、見つかったー!」

そこにいたのは、小さく折り畳まって狭い空間に座っているあおいだった。

「びっくりしたー!!あおいちゃん凄いとこに隠れとるやん!」

「いててて、腰が…」

よっこいしょ、と出てきて体を大きく伸ばした。

「え、あの中暑くなかったん?」

「扇風機と保冷剤持って入った。でももう溶けてもた」

「すご…よう耐えられたなあ」

手にはハンディ扇風機と、割ったら冷たくなる大きめの保冷剤が握られていた。どうやらそれで暑さをしのいでいたらしい。それにしても暑かっただろうに。

「よっしゃー!1人見つけた!次いこー!」

なかなか幸先の良いスタートに、鬼のテンションと室温はさらに上がったのだった。



 かくれんぼ開始から約20分。現在地は2階の荷物部屋だ。ボールや古いランドセル、冬用の服が入った衣装ケースなどが置かれている。とても物が多くゴチャゴチャしている。

「絶対ここ誰かいるやろ!」

まなは積み上げられた物をどんどんどかしていく。だが、人らしき物は見当たらない。

「んー…どこだろ…………ん?」

そのとき、何やら異変に気がついた。

「…こんなに服多かったっけ??」

たしかに、いつもはケースに入っていない服は数着しかないが、今は山のように積まれている。

「あー!分かった!そういうことか!!」

何か閃いたように叫んだ後、服の山をどかし始めた。そしてしばらくすると、まなが嬉しそうに声を上げた。

「みーつけた!!」

「見つかったか…!」

なんと?そこからかずさが現れた。片手に参考書を持って、暑そうに手で扇いでいる。

「はあ、一瞬潜っただけでも暑い」

「え?どういうこと?」

「まなが来るまでは近くに座ってこれ読んでた。んで足音がしたからすぐに隠れた」

「なるほどー!賢いなあ!」

「でもやっぱあからさますぎたか…」

失敗した、と悔しそうに頭を掻く。しかし、待ち時間に参考書を読んでいたなんて、流石は家族一の秀才である。

「あとは…さくらちゃんか。どこにおるんやろ?」



 かくれんぼ開始から約1時間。まなは未だに家じゅうを探し回っていた。

「さくらちゃーん、どこー?」

あと1人が一向に見つからない。隅から隅までくまなく見るも、気配すら感じられない。

 あおい「見つかった?」

 まな「まだー」

 あおい「こんなに見つからんことある?」

 かずさ「庭の倉庫見た?あと洗面所の扉とか」

 まな「全部見た。ベッドの中にもおらんかった」

 あおい「まさか消えた…?」

 まな「えー怖い…!」

 かずさ「いや、そんなはずは…」

 まな「ちょっと2人も一緒に探してくれへん?」

 あおい「オッケー、ほんならあおいこっちの部屋探すわ」

 かずさ「俺は1階見てくる」

こうして3人体制でさくらを探すことになった。



 そこからさらに30分後。少女は見つからない。

「さくらちゃーん!」

「ここにもいないか…」

「もう疲れた…」

もうほぼ行方不明で捜索願いが出されてもおかしくないレベルで、捜索隊もすっかり疲労困憊な様子。

 とそのとき。

「ただいまー」

玄関のドアの音とともに、誰かが帰ってきた。

 あおい「あ!ほなみ!」

 まな「お姉ちゃんおかえりー!」

現れたのはほなみだった。どうやら部活から帰ってきたようだ。少し疲れた様子で、そのまま自分の部屋に上がっていった。

 まな「…お姉ちゃんも一緒に探してって言おうと思ったけど、疲れてそうやからやめとこ」

 かずさ「仕方ない、もう一回探すか…」

そうして3人が立ち上がろうとした時、


 「きゃああああああ!!」


とんでもない悲鳴が、2階から聞こえてきた。只事ではない、何があったのかと、3人は慌てて階段を登った。



 まな「どうしたの?!」

 かずさ「大丈夫?!!」

みんなが部屋に駆け込んだとき、ほなみは口元を押さえて腰を抜かしていた。

 あおい「何があったん??」

 ほなみ「いや、めっちゃびっくりした……wあはっw」

 あおい「えぇ…?」

なぜかほなみが笑い始めた。あおいは不思議そうな顔を浮かべる。

「だって…wそこ開けたら…ぷっ…w」

そう言って自分の引き出しを指差した。勉強机についている、深さのある小さなものだ。

 かずさ「え、まさか…」

何かを察したように、かずさが近寄っていく。それを見てあおいとまなも近づいた。まなは引き出しに手をかけた。

 まな「開けるよ…?せーの、!」

そこには………


「あー!みーつけた!!」

「うう、見つかっちゃった…暑い…」

体操座りで引き出しに入っているさくらがいた。汗だくで冷たい物を欲しそうに、ぴょこんと顔を出してこちらを見ている。

 かずさ「うわ、こんなとこにいたの?!」

 あおい「たしかにさくらちゃんならここに入れるか…いやいや、にしても!」

 さくら「こんなとこに隠れなきゃよかった…もう無理…」

 あいみ「めっちゃ面白くてかわいかった!びっくりしたけどw」

 まな「じゃあ全員見つけたからまなの勝ちだよね?」

 さくら「えー!ずっと見つからんかったからさくらの勝ちだよお!」

 まな「でも降参してへんやん!」

 かずさ「まあまあ、引き分けでいいんじゃ…」

 まな・さくら「「ダメ!!!」」

こうして、無事さくらも見つかり、お家かくれんぼは幕を閉じたのだった。

 あおい「てゆーか余計暑くなってない??」

 かずさ「たしかに…」

 4人「「「「あつい〜……………」」」」

                (END)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る