秘密(俊)

俺は、理名に涙を拭われた。


理名は、眠ってしまった。


俺は、頬の手を口に持っていった。


わざと、指を口に咥えたけど理名は起きなかった。


理名の頬を指でなぞった。


俺は、理名に昨日のようにキスをした。


止められなかった。


酔って寝ているから、理名は起きなくて…。


「ごめんね、許して。これが、最後だから…。」


俺は、理名にもっと深いキスをしたんだ。


暫くそうやっていた。


最後だって決めたら、止められなくて…。


キスだけじゃ止められなくて…。


「ご想像にお任せします!でしょ?」


「茜」


「最後までしたのか、しなかったのか!どこまで、したのかはご想像にお任せします。でしょ?」


「そうだな!茜もだろ?」


「うん」


俺と茜は、抱えきれない秘密を共有していた。


「理名は、何も知らないんだ」


「私も、良介さんは何も知らないよ」


「謝るのは、何か違うだろ?」


「確かに、そうだね」


「だから、理名にはこれからもお母さんでいて欲しい」


「俊は、嫌だったの?大河内にされるの」


「望んでた。でも、大河内になれば理名は俺のお母さんだから…。お母さんに、そんな気持ちを持つのはおかしいから…。茜だって、そうだろ?」


「うん!望月になったからね。良介さんは、父親になっちゃったから…。」


「そうだろ」


俺は、茜の頭を撫でる。


「大河内になれて、嬉しかったんだ。理名は、俺の母親になってくれた。あの日以来、俺はちゃんと理名を母親にしたんだ。」


「私もよ!俊。私もあの日以来、良介さんを父親にしたわ」


「でも、気持ちだけは捨てられなくて」


「うん」


俺は、家を出る前に、また理名に告白していた。


「理名」


「うん?」


「愛してるんだ。理名」


「ありがとう、俊」


「そんなんじゃないよ!そんな簡単なもんじゃ」


俺は、理名を引き寄せて抱き締めた。


「強くなったね!抱き締める力。大きくなったね、私をすっぽり包めるぐらい。私を見下ろすぐらい」


その言葉に、告白を続けられなかった。


「理名は、俺の母親してくれてたんだな」


「当たり前じゃない。俊は、私の子供だよ。お腹を痛めてなくたって、俊は私の子供だよ。俊の中にどんな気持ちがあるかわからない。出会った時から変わってないのかも知れない。でもね、私は変わったの。最初は、俊が苦手だった。だけど、今は本当に愛してるよ。俊のお母さんでいさせてくれない?俊の成長をちゃんと見てきたから…。」


「理名、ギュッってしてよ」


理名は、俺をギューって抱き締めてくれた。


心臓が壊れる程叩いた、目の前が滲むぐらい涙が溜まった、理名の肩に顔を置いた。


俺は、もうやめるよ。


一生、理名を愛してる。


でも、この気持ちを抱えたままで俺は、もう理名と親子になるから…。


「理名」


「何?」


「愛してる!お母さん」


「俊」


理名は、さらに俺を抱き締めてくれた。


「俺のお母さんになってくれて、ありがとう」


「うん、うん」


理名は、泣いていた。


「私をお母さんにしてくれて、ありがとう」


「ううん」


最初から、理名への気持ちは恋だった。


でも、理名は変わらずにお母さんだった。


知らない俺を大きくしてくれたのは、理名だった。


だから、俺は理名への気持ちをちゃんと終わらせようって思った。


両手に抱えきれない程の秘密と共に…。


「俊、泣いてる?」


「懐かしくて」


「理名さん、素敵な人だよね。好きになるのわかるよ。」


「うん」


「最初から、理名さんの子供ならよかった?」


「そうだな!理名と優生さんの子供だったら、俺は幸せだった。きっと、歪んだ愛を持ってたから理名を愛したんだよ。」


「私も同じだよ!」


「理名と優生さんは、傷つけたくない。苦しめたくない。だから、茜。俺の秘密知っててよ」


俺は、茜に話した。


「同じだね」


茜は、そう言って俺を抱き締めた。


「全部、全部、理名がよかったんだ。あの頃の俺は、ガキだったから」


「私も同じだよ。良介さんがよかったの」


俺は、茜の秘密を受け取った。


墓場まで持っていく、約束をした。


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