旅行
「理名、おはよう」
「優生、おはよう」
「次は、どこに行こうか?」
「そうだね!」
「仙台は?牛タン好きだろ?」
「そうだね!仙台行きたい」
「じゃあ、そっちに行くか」
「うん」
ミカエルがいなくなって、俊が結婚して、私と優生は、自由に生きていた。
ずっと、窮屈だった。
そんな世界を俊が、変えてくれた。
俊が、13歳の夏休み。
俊の両親には、「勝手にして下さい」と言われていた。
「わあー。すごいね。すごい人だね」
私と優生は、ミカエルを動物病院に預けて二泊三日の旅行に来ていた。
そして、俊も連れてきていた。
どこに行きたい?
俊に聞いたら、「東京タワー」が見たいと言った。
だから、私達は東京に来ていた。
「ねえー。理名、優生さん。こんなおっきいって知ってた?」
「おっきいな」
「うんうん、おっきい」
「嬉しい?」
「嬉しいよ」
初めての旅行に、俊の目はキラキラしていた。
ミカエルと三人の生活もたのしかった。
けど、俊が来てからは俊がいる生活は、数億倍楽しかった。
「理名、手繋いでいい?」
「人混み怖い?」
「迷子になりたくない」
そう言って、俊は私と優生の手を握りしめた。
東京は、楽しかった。
それからは、何度も旅行に行った。
俊がくれる全てが、私と優生には新鮮だったから…。
「他人の子供なんか愛せないって思ってたよ」
優生は、お茶をいれて私に渡してきた。
「そうね。でも、あの子」
「理名を本気で愛していたよな!俺もわかってるよ。それでも、俊は理名を頑張って諦めて茜ちゃんと結婚した。」
優生は、お茶を飲んでる。
「憧れと好きが、こんがらがった先にいたのかな?私」
「何で?そう思うの?」
「私も昔、ののちゃんの両親が好きだったもん。ののちゃんのお兄ちゃんは優しくて恋してたから…。でもね、それはののちゃんの友達だから優しかっただけ…。私は、そう言うの区別つけられなかったから…。」
「だから、俊も同じだって思ったの?」
「うん。そう思った」
優生は、私の頭を撫でた。
「理名、それでも俊は理名を愛していたんだよ。もう、否定するのやめてあげなよ。俊だって、どうしょうもない気持ちを抱えてたはずだよ。理名といるだけで、苦しかっただろうし…。抱き締めてもらうのだって苦しかっただろうし…。だから、俊の気持ちを勘違いで終わらせてやるなよ」
「優生、もし俊と私がキスをしたり、その先にって考えたら許せるの?」
「理名」
「許せないよね?」
優生は、私の頭を自分に引き寄せた。
「許すよ。だって、歪んだ愛しか持ってなかったんだよ。俺達も俊も…。だったら、間違いが起こったって不思議じゃない。それに、今さらそれを調べてどうこう何か言っても仕方ないだろ?」
「何それ…。」
「理名が本気でそんな事しないってわかってるから」
優生は、私の頬を両手でつねった。
俊にされたキスは、墓場まで持っていこう。
「当たり前だよ!俊は、私の息子だったんだよ」
悲しそうな切なそうな声も、涙も忘れられない。
多分、あれはなんとなくだけど…。
酔った私に、何かをしたのだと思う。
問い詰めなかったし、俊はそれ以降、何もしてこなかった。
きっと、自分なりの方法で終わらせたんだ。
それが、そうなら…。
私は、優生を裏切っている。
だけど、聞けないし、本当の事は、わからない。
だから、私は優生には何も話せない。
私の憶測で、俊と優生を傷つけたくない。
「理名」
「何?」
「やっぱり、理名との子供欲しかったよ。俺は…。でも、神様は選んでくれなかったな!俺達」
「選んでくれたじゃない。俊が…。」
「そうだな!」
俊は、大人になって自分の家族を捨てた。
そして、私と優生をとってくれた。
それだけで、よかった。
それだけで、充分だ。
「仙台で、また俊に荷物送らないとな!」
「お土産?」
「そうそう」
私は、優生とニコニコ笑いながらスマホを見つめていた。
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