カフェ・ガーディアンズ
@junin_toiro
プロローグ
「ねーえ」
少女の声がする。
「殺しちゃってもいーい?」
天真爛漫で、明るい声だ。
『駄目だ』
「えー!? でもさでもさ、この人は私を殺そうとしてたんだよ!」
『それでも、だ。我々の役目は“護る”ことだからな。……この前までとは違う。』
低い、男の声が応える。
「まあねー。しょうがないっか。」
そしてその少女が、こちらを向く。
明るい茶髪のショートヘアに、まさしく女子高生と言ったようなセーラー服。
その辺の街中を歩いていても何も感じないであろう、そんな少女が。
──拳銃を持ってこちらを向いている。
「てことなので、今回は見逃してあげるよ。ラッキーだったね。」
「……そう、か」
少女はにこっ、と笑う。
何の濁りもない、純粋な笑み。
「あ、でも。今回のことはもちろん他言無用ね? もし誰かに言ったら……」
少女が、親指で首を掻っ切るジェスチャーをした。生憎、冗談だとは思えない。
「こう、だからね?」
「わ、わかった。どうすればいい?」
「今すぐここから出てって? 私たちだって、暇でこんなことやってる訳じゃないから、ね?」
運良く殺されることなく、戻れるようだ。
とはいえ、あの少女はなんだったのだろうか。放った銃弾は全て避けられた。少女が止められなければ、確実に殺されるところだっただろう。
にしてもあそこまで楽しそうに、人を殺そうとするなど。
「化け物だ……。」
小さく呟き、走り出した。
『おっと、話が変わったぞ』
「どういうこと?」
『今回は特別。口封じが必要なんだと。』
「あいよっ、と」
少女が拳銃を指でくるくると回し、そして銃口を向ける。
「ごめんね、騙すつもりはなかったんだけど」
少女はウインクをして、そして引鉄を引く。
「殺さなきゃいけないみたい」
弾丸は胸に直撃した。
血が吹きでて、思い切り前のめりに倒れ込む。コンクリートの無機質な床に、赤い血がみるみる広がっていった。
「……。な、ん……で…」
「それは何に対しての『何で』? 私が人を殺してること?それともあなたが殺されること?それとも……」
ひと呼吸おいて、彼女は言った。
「──私が嘘をついたこと?」
「…………」
それに応える声は、ない。
「あっ、死んじゃったね」
しまった、と彼女は舌を出す。
『お疲れ様、〈シリウス〉。今回も見事な働きだったな。』
「でしょー? 私ってば天才?」
『……ああ、そうかもしれないな。』
それはさておき、と男が言う。
『今回の掃除は、本部がやってくれるそうだ』
「おっ、本部もいいとこあんだねー。」
『まあ、今回は特例ということだ。今後は殺すことすら躊躇してもらいたい』
「はーい」
不平そうに、少女が言った。
「にしてもなんで、こんなこと始めんだろうねー? なんの意味があんのか……」
『ま、色々ある、ということだろう。ともかく、今日はもう戻って来い。店の開店前の準備があるからな。』
「おっけー。すぐ帰るね」
少女は言って、外に向かい始めた。
「んじゃ、帰りますか」
バイクに跨り、エンジンをかける。
東京の、自然の光などとうになくしてしまったのかのような明るい夜の道を、バイクは行く。
「──護り屋、かあ」
少女は一人小さく呟く。
「性にはあわないけど。ま、いっか」
そうして〈シリウス〉は、街を走る。
ベンチで仲良くお酒を楽しむ中年の男たちに、仲良く話しながら道を歩くカップル。疲れ果てたような顔で、とぼとぼと歩くまだ若い男の姿も見える。
時刻は二十二時を回ろうとしていて、夜の東京の街並みは、不思議ととても美しいものに見えた。
「今日も何とも平和なもので」
そして、彼女は言った。
「──人はいっぱい死んでんのにね」
カフェ・ガーディアンズ @junin_toiro
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