魔王様の憂鬱。

@FuJicRa

魔王様の憂鬱。

こんにちは。我輩魔王です。


最近、とてつもなく悲しい出来事がありました。


暇過ぎて世界中に宣戦布告して早15年。

退屈を紛らわせる為にしてみたんですが、これが微妙だった…。

魔族では並び立つ者無しと言われ、実際に誰よりも強くなった我輩。

取り敢えずは担がれるままに魔王になってみたものの…100年も経てばもう暇で暇で。

もう魔族の中には反乱を起こすような気骨のある奴もいないし、戦う相手がいない。

政務はある程度やったら飽きたので、部下に投げてる。

元々戦うことが大好きな我輩は



「我輩、そろそろ魔王辞めたいなー」



と、思ったので、執務室に宰相呼んで言ってみたら超止められた。

ホント超止められた。

だから



「魔王って暇じゃん! 超暇じゃん!! 我輩、強い奴と戦いたい!! もう椅子に座って紙とにらめっこしたり会議するだけの生活はイヤなんだよ!!」



って、全力で執務室の机を叩いて訴えてみた。

そしたら机を叩いた衝撃で魔王城崩壊しちゃった。

…ちょっと楽しかった。

でもその後、みんなに超怒られた。

ホント超怒られた。

それが20年くらい前の話。


その後、魔王城を立て直して、宰相だけじゃなくて大臣達も呼んで訴えてみた。

そしたら大臣の1人が



「じゃあ魔王様、世界中の奴等をぶっ倒して…テッペン獲っちゃいません?」



って言ったので、我輩は



「いいね! 超いいね! それ採用!!」



って答えたんだ。

そしたら皆が色々準備してくれて、我輩は世界中に宣戦布告したんだ。

それが15年前の話。

それからの生活は楽しかった。

色んな種族の強者が徒党を組んで我輩を倒そうと挑んで来た。

中には結構な接戦もあったりして、超楽しかった。

ホント超楽しかった。


でも、ここ数年でそれも楽しくなくなってきた…。

我輩も生き物だから成長しちゃうんだよね。

挑んでくる奴等と戦う度に、我輩も強くなった。

唯でさえ強かった我輩が、更に強くなったんだ。

段々と挑んでくる奴に物足りなくなってきた。

先月なんか抜いた逆さ睫毛投げて倒しちゃったし。

…逆さ睫毛超痛かった。

ホント超痛かった。


そんな生活でも、ここ数年は楽しみにしてたことがあったんだ。

なんでも、人間共の中から女神の聖剣っていう超強い武器に選ばれた、勇者って超強い奴が出現したんだって!

その勇者って奴が我輩を倒す為に、仲間達と修行を重ねながら魔王城を目指してるって話で世界中が盛り上がってたんだ。

超楽しみだった。

ホント超楽しみだった。

勇者も仲間もどんな奴らなんだろ?

こんな話題になるくらいなんだから、きっと超強いんだろうな。仲間もきっとスゴいんだろうな。

いつ来るんだろ?

明日かな?明後日かな?

来週?来月?…来年までにはきっと来るよな?きっと…ていうか来て欲しい。超来て欲しいから歓待しないとな!

って、我輩は超ワクワクしてたんだ。





でも…

その勇者って奴…

ここに向かってる途中、6日前に女に騙されて自殺しちゃったんだよね…。

その知らせが2日前に届いたんだ。

我輩、超悲しかった。

ホント超悲しかった。


この話を聞いた我輩は、勇者を騙した女を魔王パワーで速攻探し出して、四肢と舌を切り落とし、オーク共の巣穴に苗床として生きたまま置いてきた。

ずっと気が狂ったようになんか、あーだのうーだの叫んでたけど知らん。

ちゃんと喋らなきゃ我輩分からないぞ?

あ、舌切り落としたんだった。てへ☆

我輩ウッカリ。超ウッカリさん。

そうそう、女は出血多量で死なないようにちゃんと血止めもして、魔法で不死属性も付けてやった。

壊れない永久機関の苗床にオーク共も超喜んでた。むしろ超悦んでた?


そんな風にして勇者の仇は我輩がちゃんと取って来たんだ。

我輩、超悲しかったし、超怒ったからね。

ホント超怒った。


で、今日は勇者の葬儀に宰相と一緒に参列して、その報告を勇者の亡骸の前にして来たんだ。

そしたら勇者の家族と仲間に超感謝された。

ホント超喜んでくれた。


さっきまで勇者の仲間達と一緒に酒を飲みながら勇者の話を聞いてたんだけど、勇者って超強かったみたい。

皆超誇らしげだった。

なんでか我輩もちょっと嬉しかった。

ホント不思議だけど、ちょっと嬉しかった。


はぁ、明日からどうしよう。

勇者もいなくなっちゃったし、明日から何を楽しみに生きていけばいいんだろうか。

我輩、憂鬱。

ホント、超憂鬱…。



…そうだ!

我輩思いついた!

超思いついた!!


また勇者みたいな奴が出ないよう、勇者を騙した女みたいな奴を世界中から消しちゃおう!!

そんな人を騙したり、死ぬほど悲しませたりする奴等は男も女も皆消しちゃおう!!

いいね! 超いいね!


よし、決めた。

我輩、超決めた。

今から旅に出る。

そういう奴等を消して回る旅に出る。


そうと決まれば…みんなに言うと止められたり怒られたりするだろうから手紙書いとこう。

手紙でごめんなさいしとこう。

超ごめんなさいしとこう。


…よし、書けた。

この手紙を…うん、ベッドの横の台に置いておこう。

重しも乗せて、これでよし。


じゃあ、こっそり窓から出て…飛んでこう。

超飛んでこう。



「とうっ!」



そうして我輩、旅に出た。

ホント超旅した。

そりゃもう10年くらい。






旅に出てから10年。

我輩、色んなとこに行った。

ホント超色んな国行った。

そんで超逃げ回った。宰相達からホント超逃げ回った。


でも最近なんか変なんだよ。

ちょっと変なんだよ。

宰相達は諦めたみたいだから置いといて…

世界中に宣戦布告した我輩の顔って、みんな知ってるはずなのに。

この頃、どこの国に行っても歓迎されるんだよね。

ホント超歓迎される。


だから我輩、訊いてみた。

今居るこの国の王様に超訊いてみた。



「なんで、最近はどの国に行っても我輩は歓迎されるんだ?」


「それは魔王様がそれだけのことをなさっているからですよ」


「それだけのこと?」



はて?わからん。 超謎。

ホント超謎。



「ええ。行く先々の国で犯罪者を減らし、その被害者を救済して回られているからです」


「うん??」


「魔王様が殺して回られるのは犯罪者のみ。 それは今や世界中が知るところです。

 しかも魔王様は犯罪者の粛清と共に、遭遇した被害者に対して金銭は勿論のこと、心のケアまで自らなさいます」


「だって被害者は大変だろ? 自殺しちゃう奴だっているんだ。 ホント超大変だろ?」



勇者の奴みたいに。

思い出して我輩ちょっとおセンチ。



「そうですなぁ…しかし本来であれば、それは国の役目。 

その国の者が犯罪者を取り締まり、犯罪をなくすべきなのですが、お恥ずかしいことに如何せんそれがままならない。 

ですが、近年ではどの国でも犯罪者は減り、各国の治安は年々良くなってきております」


「それは良いことだな。超良いことだ。

確かに、ここ暫くは我輩が殺して回るような奴等も減ってきてるな」


「ええ。それは魔王様を恐れて犯罪を犯す者が、世界中で減っているからなのです」


「…そうなのか?」


「はい。今では巷で『悪いことをすると魔王様が来るぞ』などという話が広まっている位でして」


「それは…いいことなのか?」


「ええ。私どもからすれば、とても良い事です」


「そうか。良いことか! 確かに犯罪者が減るのは被害者が減ることだし、良いことだな。

 うん、超良いことだ!」



超良いことだと聞いて我輩も思わずにっこり。

沈んだ気分を上げる為にもっと聞こう。超聞こう。



「はい。 今では多くの国の者達が貴方様に対し、日々感謝を捧げております」


「ほ?」


「民衆の間では、何処からとも無く現れ…そして弱者を救い犯罪者を倒して去っていく魔王様のお姿を見た多くの者が『魔王様こそが世界の守護者であり、世界の主である』と、信じている者も多いくらいですから」


「え?」



え? 我輩、世界の主になったの?

知らなかった。

ホント超知らなかった。マジ?

あ、だから宰相達は追ってこなくなったのか!?

我輩ピーンと来ちゃったね。超来た。



「それと…最近民衆の中では貴方様を題材とした本や劇が流行っているのですよ」


「え? それホントか? 我輩知らなかった…」


「題名は何れも『魔王様の世直し道中』…私もファンなのです」


「『魔王様の世直し道中』…いいね! 超いいね!」



我輩、世界の主としてこれからも頑張る!

ホント超頑張る!!!

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