ワニのひとりごと-3-
キツネ、クジラ、ハリネズミ。
一人、また一人と減っていく。
売り場にいたたくさんの仲間たちは数を減らし、気がつけば私は『セール』と書かれたワゴンにのせられていた。
おかしい。
これは絶対におかしい。
誰よりもエクセレントなワニである私が、こんな仕打ちを受けるなんてあり得ないことだ。ほかにもワゴンにのせられている仲間がいるけれど、ご主人様が決まった仲間の数に比べると圧倒的に少ない。
なんでこんなことに。
誰よりも早く、優しくて素敵なご主人様の元でティッシュを守り、供給する仕事をするはずだったのに、まさかご主人様が現れない事態に陥るとは思ってもいなかった。
悲しい。
今日も心ない店員の“売れ残り”なんて声が聞こえてくる。
もう駄目だ。
終わりだ。
きっと私は、売れ残りのままティッシュカバーとしての仕事をすることなく処分されるに違いない。
※※※ ※※※ ※※※
――なんて悲観的になっていた私を救ってくれたのが中学生の志緒理ちゃんだ。志緒理ちゃんは、四十パーセントオフと書かれた値札がついた私をワゴンから救い出し、レジへ運び、家へ連れて行ってくれた。
そして、部屋で一番日当たりのいい場所でひなたぼっこをさせてくれて、しょぼくれていた私をもこもこにしてくれた。もちろん、お腹にティッシュも入れて、私に仕事を与えてくれた。
あれから半年が過ぎ、志緒理ちゃんは私のアイドルになって、私は志緒理ちゃんファンクラブの会員第一号になった。
志緒理ちゃんは中学生でまだ子どもだけれど、優しくて素敵な人だ。
私は、志緒理ちゃんの元でティッシュカバーとして働けて幸せだと思う。
志緒理ちゃんといれば処分されることに怯えずにすむし、ご主人様が決まっていく仲間たちを見送って悲しい気持ちにならずにすむ。志緒理ちゃんに撫でてもらえることもある。
私はここにきてからずっと幸せだ。
でも、気になることもある。
それは志緒理ちゃんがときどき寂しそうにしていることだ。
志緒理ちゃんは、学校がある日もない日も一人でいる。
この部屋に志緒理ちゃん以外の人が入ってくることは滅多にない。
だから、私はお喋りの練習をしたいと思う。
いつか志緒理ちゃんの話し相手になれるように。
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