仙台さんは質問に答えない(つぎラノ4位記念SS)
猫を飼ったことはない。
もちろん犬を飼ったことも、鳥を飼ったこともない。
だから、私は特別に動物が好きというわけじゃない。
ティッシュカバーがワニなのはたまたまだ。
カモノハシを選んだのもたまたまだ。
でも、仙台さんは私を動物好きだと思っている節があって、黒猫のぬいぐるみをプレゼントとして渡してきたり、猫を探しに行こうと言ってきたりする。
「宮城、カモノハシに恨みでもあるの?」
この部屋の主である仙台さんが、私の隣でのんびりと言う。
「どういうこと?」
「カモノハシ、睨んでるから」
「睨んでない。仙台さん、ゼリー早く食べたら」
私はテーブルの下でくつろいでいるカモノハシのティッシュカバーを引き寄せて、頭をぽんっと叩く。
食後のデザートとして彼女がコンビニで買ってきたみかんゼリーを二人で食べ始めて約十分。
私の容器は空になったけれど、仙台さんのゼリーは半分から減らない。嫌いなのかと思うほど、のんびり食べている。
「早く食べなくてもゼリーは逃げないでしょ」
「そうだけど、ゆっくり食べる理由あるの?」
「宮城、もう部屋に戻りたいの?」
「質問の答えになってないじゃん」
「なってると思うけど」
仙台さんが平坦な声で言って、ゼリーを一口食べる。
本当に彼女は意味のわからないことばかり言う。
私は小さく息を吐いて、質問の答えになっていない答えを頭から追い出す。
こういうときの仙台さんは追及しても無駄だ。
何度聞いたところで答えが出てきたりはしない。
「仙台さんって猫とか犬とか動物飼ったことある?」
つまらない話だとは思うけれど、どうせ話をするなら答えが出るものがいい。
「飼ったことないけど……」
ゼリーの容器をテーブルに置いて、仙台さんが私を見る。
「けど?」
問い返すと柔らかな笑みが返ってくる。
「ここで飼うなら猫かな」
「ペット禁止だよね、ここ」
「そう、だから本物の猫は飼えないけどね」
「本物ってなに?」
「本物は本物。にゃーって鳴くヤツ。宮城は動物飼いたくない?」
「別に」
動物を飼いたいとは思わない。
飼わなくてもこの家には、高校生だった頃にそれなりに大人しく私に従っていた犬のような仙台さんがいる。
「そっか」
面白くなさそうな声が聞こえてきて、私は彼女に「犬は飼いたくないの?」と尋ねる。
「宮城は?」
「散歩、面倒くさそう」
「なるほどね」
もしも犬だったら、自分でリードを咥えて勝手に散歩に行って勝手に帰ってきそうな仙台さんが当たり前のように納得する。
私は黙って彼女の肩をべしりと叩く。
「え、待って。今、私、なんで叩かれたの?」
「なんとなく」
「酷くない?」
「酷くない。気に入らないなら、これ叩けば」
カモノハシのティッシュカバーを仙台さんに押しつけて、膝を抱える。
「カモノハシ叩いたら、可哀想じゃん」
そう言うと、仙台さんがカモノハシの頭を撫でた。
彼女たちが知らない秘密のお話(週クラ番外編) 羽田宇佐 @hanedausa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。彼女たちが知らない秘密のお話(週クラ番外編)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます