ペンギンのひとりごと-2-(228話からあとのお話)

 ケースの向こう側。

 ときどき人間が、ケースの中でじっとしているだけのわたしたちを見に来る。人間が来るとときどき仲間が減って、ときどき減った仲間が増える。


 振り返れば、わたしがいた場所はそういう場所で、わたしたちはクレーンゲームというものの“景品”だった。


 そういうことに文句を言っている仲間もいたけれど、わたしは人間を観察できるケースの中が気に入っていて、むぎゅむぎゅとたくさんいる仲間たちも気に入っていた。


 ――あのときまでは。


 十二月二十五日。

 クリスマス。


 人間がそう呼んでいる日に、綺麗な女の子がわたしを睨んできたかと思ったら、額をケースに思いっきりぶつけていた。


 こわい。


 と思ったのが、その女の子――“葉月さん”の第一印象だった。

 けれど、その印象はすぐに変わった。


 わたしは葉月さんではなく、一緒にいた黒髪の女の子にケースの中からつまみ出され、葉月さんに抱えられ、人間の腕の中が心地が良いものだと知った。そして、彼女のベッドがわたしの居場所になって、わたしの綿の中に人間に向けたことのない感情が生まれた。


 好き。

 葉月さんが大好きです。


 でも、わたしのご主人である葉月さんは、わたしをつまみ上げた志緒理さんのことばかり見ていて、わたしのことは見てくれない。一緒に寝たりもするけれど、葉月さんの興味は志緒理さんにあるらしい。


 それは葉月さんと一緒に暮らすようになってすぐにわかった。


 葉月さんは、カモノハシのカモちゃんさんの話はしないのに志緒理さんの話を私によくする。


 葉月さんは、カモノハシのカモちゃんさんにはほとんどキスをしないのに志緒理さんにはよくキスをする。


 状況を考えると、これは、きっと、葉月さんと志緒理さんの二人は仲が良い。

 でも、状況的にとても仲が良いはずの二人は、あまり仲が良さそうに見えないことが多い。


 不思議だと思う。


 この部屋の新参者であるわたしは、わたしよりもずっと前からここにいるカモちゃんさんに葉月さんと志緒理さんの仲について聞こうとしたけれど、カモちゃんさんは無口で、わたしとお喋りしてくれない。


 だから、カモちゃんさんに頼らずに自分で葉月さんと志緒理さんのことを観察したけれど、二人の仲がどういうものなのかはよくわからなかった。


 わたしはもっともっと二人を観察しなければいけないと思う。そのためにも、いや、そんなことがなくても、わたしは葉月さんとずっとずっと一緒にいたい。


 同じベッドで眠って、床にコロコロ転がって、カモちゃんさんに邪険に扱われる。

 そういう生活をずっと続けたいと思う。


 葉月さんと志緒理さんの仲は理解できないけれど。

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