カモノハシのひとりごと-2-(122~140話辺りのお話)
ぬいぐるみ、ぬいぐるみ、たくさんのぬいぐるみたちで作られた山。
その中の一つで、ワニに似ていたりはしないカモノハシ。
それが私だった。
そして、そんな私を選んだのが宮城志緒理で、私は彼女の家のキッチンでティッシュカバーとして働くことになった。
乱雑に置かれ、来る人たちに値踏みされる生活に比べると、キッチンは快適で、暮らしやすかったから、この家の住人たちに頭を叩かれたり、手を引っ張られたりすることはそれほど気にならなかった。
空っぽだった体にティッシュの箱という中身を得ることができ、この家の住人にティッシュを供給するという誇り高い仕事も得ることができたのは良かったことだと思う。
カラーボックスというちょっと高い場所から見る景色もなかなか良いもので、一生このキッチンにいたいと思った。
でも、穏やかな日々は宮城志緒理によって奪われた。
キッチンを居場所にしていた私は、前触れもなく宮城志緒理に“仙台さん”の部屋へ連れ去られた。
このときは宮城志緒理のことを横暴だと思ったけれど、今は感謝している。
何故なら、ご主人様とずっといられるようにしてくれたから。
ご主人様は、宮城志緒理に選ばれた私をレジに連れて行ってくれた人だ。最初は宮城志緒理と同じで、この家の住人でしかなかったけれど、私を撫でて、キスをしてくれるから大好きになってご主人様と呼ぶべき人になった。
宮城志緒理にも同じようなことをしていることについて、言いたいことはあるけれど、私はご主人様が眠っているときも同じ部屋にいられる。これは私の特権で、この特権を使うことを許されている私はきっとご主人様の一番なのだと思う。
今日も宮城志緒理がいない部屋にご主人様がいて、私を見つめてくれている。
「んー」
小さく唸って、ご主人様が床の上にいる私の頭をぽんっと叩く。
「名前、まだないんだよねえ。カモノハシ、カモノハシかあ。かーちゃん、だとお母さんみたいだし。ハッシーっていうのも……」
ご主人様は私の名前を考えてくれているようで、ぶつぶつと誰に言うでもなく呟いている。
「そうだ。宮城に名前つけてもらう?」
ご主人様が行儀悪くごろりと床に寝転がる。
嫌です。
宮城志緒理は嫌いではないけれど、嫌です。
ご主人様に名前を付けてもらいたいです。
言えるものならそう言いたいところだけれど、残念なことに私は喋ることができない。
「まあ、宮城が名前つけるわけないよねえ。猫にも名前つけてないっぽいし」
そう言うとご主人様が、はあ、と息を吐く。そして、トントン、とドアをノックする音が響いて、私は落胆した。
どう考えても私の名前が宙ぶらりんになってしまう展開で、予想した通りの言葉が聞こえてくる。
「名前はまた今度ね」
ご主人様が起き上がり、ドアを開ける。
残念だけれど、仕方がない。
楽しみは取っておく。
いつか、きっと名前をつけてもらう日のために。
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