ペンギンのひとりごと(268話辺りのお話)

拝啓

 カモちゃんさん。

 わたしです、わたし。

 ペンちゃんです。

 わたしは今、志緒理さんのベッドにいます。

 毎晩、志緒理さんと一緒に寝ています。だから、そちらに帰ることはできません。


 なんて、葉月さんのお部屋の先輩、カモノハシのカモちゃんさんにお手紙を書こうと思ったけれど、わたしの手はペンを持つことに適していないし、紙もない。だから、手紙は書けない。そんなことよりも、わたしはこの状況をなんとかしなければいけないと思う。


 ――大体、交換ってなんなんです?


 なんでわたしがワニさんと交換されることになったのかわからないし、いつまでここにいればいいのかわからない。わたしのご主人である葉月さんは、何度もこの部屋に来ているけれど、わたしを連れて帰ってはくれない。


 前みたいに、大好きな葉月さんと一緒に眠りたいと思う。


 それなのに、葉月さんと一緒に眠るという習慣は志緒理さんと一緒に眠るという習慣に変わってしまったし、葉月さんに撫でられてキスをされるという習慣は志緒理さんにぺしりと頭を叩かれたり、くちばしをつままれたり、むぎゅむぎゅとお腹を押されるという習慣に変わってしまった。


 ときどき抱きしめてくれることもあるし、話しかけてくれることもあるからなんとなく許してはいるけれど、志緒理さんはわたしの扱いが雑すぎると思う。できることならもっと話しかけてほしいし、葉月さんがしてくれるようにたくさんキスをしてほしい。


 いつ葉月さんの元へ帰ることができるのかわからないのだから、それくらいしてくれても罰は当たらないと思う。


 文句を言いたいこともあるけれど、葉月さんの元にいたときにはなかった良いこともある。


 それは、お布団にちゃんと寝かせてくれることだ。


 志緒理さんは、わたしをベッドに寝かせて、お布団をかけてくれる。葉月さんはその日の気分でわたしの置き場所を変えるから、志緒理さんのそういうところは評価してもいいと思う。


 この部屋には他にも良いところがある。それは、夜になると、黒猫のろろちゃんさんが話し相手になってくれることだ。ろろちゃんさんは良い子で、可愛いから、葉月さんのお部屋にも遊びにくればいいと思う。


 葉月さんのお部屋にいるカモちゃんさんは無口で、機嫌が悪いことが多い。この部屋の主である志緒理さんに少しだけ、ほんの少しだけ似ているかもしれない。でも、カモちゃんさんよりも、圧倒的に志緒理さんの方が葉月さんに好かれている。


 わたしもご主人である葉月さんが好きなものを好きになりたいから、志緒理さんのことはわりと、結構、まあまあ好きになっている。わたしが大好きな葉月さんと、わたしがわりと、結構、まあまあ好きな志緒理さんが仲良くすることを許可してあげなくもない。


 だから、早く葉月さんのお部屋にわたしを帰してほしい。


 だって、わたしには、葉月さんに報告しなくちゃいけないことがたくさんある。


 志緒理さんは、ろろちゃんさんにすごく優しいこと。

 でも、葉月さんにはちょっと冷たいこと。


 志緒理さんが、ろろちゃんさんにキスをすること。

 でも、葉月さんとキスをしている回数の方が多いこと。


 そういうことを葉月さんに報告したい。


 志緒理さんについて、葉月さんにたくさんたくさんお話して、たくさんたくさん撫でてもらって、たくさんたくさんキスをしてもらいたい。


 だから、早く葉月さんのお部屋に帰りたいけれど、どうすれば帰ることができるのかわからない。


 今のわたしにわかることは、葉月さんと志緒理さんがこれからパスタを食べるということだけだ。


 さっき志緒理さんがカルボナーラのレシピを調べていたから、間違いないと思う。ただ、志緒理さんがこの部屋を出て行ってからそれほど時間が経っていないから、美味しくできたのかわからない。


 きっと、美味しくないのだろうとは思う。

 ろろちゃんさんから聞いた話では、志緒理さんは料理が下手らしい。


 葉月さんは優しいからどんなものでも美味しいと言いながら食べるに違いないけれど、ご主人のお腹が心配ではある。


 それにしても。

 志緒理さんは料理が下手なのに、なんでわざわざカルボナーラなんてものを作ろうと思ったんだろう。


 わからない。

 意味がわからない。

 人間って難しい。

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