ワニのひとりごと(25話あたりまでのお話)

 私の志緒理ちゃんは家に友だちをほとんど呼ばない。


 だから、いつもこの部屋では志緒理ちゃんと二人きりだった。志緒理ちゃんの二十四時間――正確には学校に行っていない時間の志緒理ちゃんのすべてが私のものだったと言ってもいい。それくらい一緒にいた。


 それなのに。

 ある日突然、見たことも聞いたこともない仙台さんなるクラスメイトが現れた。


 週に一回か、二回。


 彼女はそれくらいの頻度でこの部屋にやってくる。そして、ほかの友だちとはしないようなことを志緒理ちゃんとする。


 それは過剰なスキンシップに見えて、気に入らない。


 私は仙台さんがこの部屋に来ることを許可した覚えはないし、志緒理ちゃんとそういうことをすることを許可した覚えもない。


 はらわた、いや、ティッシュが煮えくり返る。


 私はただのティッシュカバーのワニでしかないけれど、仙台さんよりもずっとずっとたくさんたくさん志緒理ちゃんと一緒にいる。ただのワニだから友だちにはなれないけれど、志緒理ちゃんを見守ってきた。今もこれからもずっと先まで、この寿命が尽きるまで、志緒理ちゃんを見守ると決めている。


 それなのに志緒理ちゃんファンクラブの会員第一号であり、ワニのティッシュカバーである私を差し置いて、志緒理ちゃんと仲良くするなんて、絶対に絶対に許せない。

 仙台さんは志緒理ちゃんと仲が良すぎる。


 ――ん? 仲がいい?


 いや、よく考えた方がいい。

 二人は本当に仲がいいのだろうか?


 一緒に漫画を読んだり、お喋りしたりしているのは仲がいいと言えなくもない。ほかの友だちとはしないこともするけれど、それが仲がいい証なのかはよくわからない。


 そもそも、足を舐めさせたり、舐めたりする行為は、人間にとってどういうものなのだろう。


 足を舐めさせている志緒理ちゃんも、足を舐めている仙台さんも、楽しそうではないし、嬉しそうにも見えない。けれど、嫌がっているようにも見えないから仲がいいのかもしれ――。


 いや、いや、いや。

 良くない、良くないはずだ。


 私の志緒理ちゃんと仙台さんが、仲がいいなんて認めちゃいけない。


 志緒理ちゃんは、仙台さんのことを友だちじゃないと言っていた。友だちじゃないなら、仲がいいはずがない。もちろん、志緒理ちゃんが仙台さんのことを友だちだと言っても、仲がいいなんて認めたりはしない。


 いつか私も、志緒理ちゃんを誰かに任せなければいけないことはわかっている。でも、仙台さんに志緒理ちゃんを任せるわけにはいかない。なにか、どうしても、理由はわからないけれど、とにかく仙台さんだけは嫌だ。


 もしも志緒理ちゃんを誰かに任せるなら、“舞香”という友だちの方がいいかもしれない。彼女はこの部屋に遊びに来たことがあって、優しいし、優しいし、優しい。だから、彼女になら志緒理ちゃんを任せてもいいような気がする。


 問題は、舞香という友だちではなく、仙台さんばかりがこの部屋に来ることだ。


 ワニのティッシュカバーである私には、志緒理ちゃんを見守りつつ、仙台さんを監視することしかできない。

 だから、仙台さんが志緒理ちゃんに変なことをしないように今日も見張ろうと思う。


 私が人間だったら志緒理ちゃんを見守るだけじゃなく、友だちにも恋人にもなれるのに。


 とても、とても、残念だ。

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