第63話 椎名にとっての最高の話
「椎名」
俺は椎名の手を取る。
「え?…………どうしたの作くん」
その行動に。くしゃくしゃになった顔でポカンとする。
「俺はさ、これまでお前に迷惑ばっかかけてたしさ。俺を心配してくれてたのにそれを毎回無視したりつき跳ねてたりしてた。ごめん。素直になれなかったというか………俺がまだ子供だっただけだ。過去にすがって、帰ってこない人を一生待って、惨めになる。でもそんな俺をいつも見捨てないで傍に居ていくれた。確かに、行き過ぎたこともしてたのは事実だ。でもさ、今思うとすげーありがたいし、俺はマジでクズだと思う」
「そんな事ないよ!作くんはずっと悩んで、悩んで頑張ってたんだよ!自分を責めることないって!」
「頑張ってたのはお前だろ!……………毎日こんな女々しい奴の相手をして、モデルの仕事もしてさ、俺に相手されないのも辛かっただろうに、ずっと笑顔でさ。俺、阿部さんに聞いたんだよ。椎名の事」
「……………それって」
「そうだ。お前が裏で悩んで泣いて、俺について超真面目に考えてくれてたってさ。心配させないように表に出してないだけさ。マジで凄いよお前」
「作くん…………」
椎名も俺の手を握り返す。
「だからってさ、私が出来る事はなにもなかった……………なにも作くんの為になんなかったんだよ……………」
「いや、話はまだ終わってない!これからが俺からのお前への最高の話だ」
最高の話。そんなの一つしかない。
多分、椎名が一番望んでいたことだろう。
これまでのことを全部ひっくるめて、感謝の気持ち。
そして、俺は前に進む。
千束との思い出は過去の思い出。もう悲しい思い出でなく、楽しかった思い出だ。
「椎名……………」
前しか向かない。そしてちゃんと椎名と向き合う。
「俺の傍に居て欲しい」
観覧車の頂上。あらゆる光に照らされるゴンドラ内に、プロポーズまがいな言葉が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます