第62話 最高の恩返し
「だな、ちゃんと話そう」
俺も、覚悟を決めて椎名の方を見る。
「どうする?どっちから先話す?」
「俺はどっちでもいいぞ、お前が先に話したいなら聞いてるし、後がいいなら俺が先に言うよ」
「うーん、私は作くんの話を先に聞いてみたいけど、ここは私から言うよ」
「そうか」
「どうしようかな~、先に結論から言っちゃうか」
スーっと深呼吸をすると、
「私はこれから作くんから距離を置くよ」
隠すように拳を握りしめ、言う。
「……………え」
その言葉に、俺はあっけに取られる。
「なに~、作くんそんな顔しないの~?どう、嬉しいお知らせだったでしょ?」
と、笑顔を見せてくる椎名だったが、それは完全に作り笑顔であった。
「私はね、前にも作くんを安心させる、寂しい思いをさせない為にそばにいたの。でもね、もう作くんなら大丈夫だと思ったんだ。それに、私がいても邪魔なだけだしね。自分でもさ、結構前から作くんにやりすぎ、というかすごく迷惑な事ばかりしてたと思うの。必要以上に付きまとって、ウザがらられてるのに、一緒に居ようとしたり、普通にめんどくさい女だったよね。だからさ、もうそれも今日で終わりにしよう
って思ったんだ」
徐々に笑顔が消え、声のトーンが下がる椎名。
「どう?作くんにとって……………いい話、だったでしょ?」
頬に一滴雫が流れる。
「あれ…………?なんで泣いてんの私」
その雫は、やがて目から溢れ、大粒の涙が流れ落ちていく。
「ごめん……………ほんとは、泣くつもりなんてなかったんだけど……………やっぱダメだね、私…………」
溢れる涙を拭きながら、しゃがれた声で精一杯伝えてくる椎名。
「椎名……………」
俺はぐっと唇を噛み締める。
ここまで椎名に辛い思いをさせておいて、俺は何をしてるんだ。
過去にすがって、前を向かない。一生思い出しては虚しくなっているだけだ。
そんな俺を見かねた椎名は何回も手を差し伸べてくれてたじゃないか。
その優しい手をいくら払っても、いつもどんな時でも傍にいてくれている。
次は俺の番だ。
阿部さんも言っていた、これは俺の問題でもあると。
だからこそ、俺はここでケジメを付ける。
これまで椎名がしてくれたことへの、最高の恩返し。
そして、これから先の椎名との未来についてだ。
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