第61話 観覧車

「もう!早く撮るよ!」


 不貞腐れた椎名はプクッと頬を膨らませながら、カメラ目線になる。


「はいはいー」


 俺も、呆れ顔のままカメラの方を向く。

 カップルモードのプリクラはポーズが最悪だ。

 手でハートを作らされたり、ハグをさせられたらり、最終的にキスまで持っていかれる。


 もちろん、椎名はすべて喜んでやるだろうが、俺には到底無理だ。


「ちぇー、このプリクラキスなかったんだけどぉ~」


 7枚ほど撮り終え、加工ブースにて椎名はそう漏らす。


「プリクラでキスとか意味ないだろ」


 わざわざ自分たちのキスを撮って意味なんてないだろ。

 とは言ったものの、ちゃんと写真ホルダーには千束とのキスプリが保存されているが、その事は言わないでおこう。


「もう早く観覧車行きたい」


「時間もいい頃合いだしな」


 時刻は6時半時を回り、辺りはすっかりと暗くなっていた。

 印刷したプリクラを取った俺達は、ゲームセンターから出ると早速観覧車乗り場に向かう。

 階段を登っている最中に見える外の景色は、ビルから漏れる光やライトアップされた観覧車。まさに夜景スポットであった。


「―――並んでないね」


「意外だな」


 乗車口には誰も並んでおらず、チラホラとカップルが降りているだけであった。

 まだ時間的には早いのだろうか。


 確かに、デートとかでくるならまだ遊んでいる時間帯だろう。

 混むのは7~8時くらいがピークだと思う。一日の思い出として乗るだろうからな。


「作くんレッツゴー!」


 先導して乗り込む椎名に、俺も後から中入る。

 係員がドアを閉めると、そこは2人だけの密閉空間になった。


「やっぱテンション上がるね~観覧車は」


「それは頂上になってから言うセリフじゃないか?」


「いやいや、乗ったらもうテンションはマックスだって~」


 外を眺めながら、体を揺らす椎名。

 この光景、見覚えがある。

 千束と観覧車に乗った時だ。

 ウキウキで外の景色を見る彼女は、今の椎名にそっくりであった。


「…………………。」


 ダメだ、何でも過去と比較をしてしまう。

 はやり忘れたいのに、忘れられない。深く考えてしまう。


 もっと、いい思い出“” のまま取って置きたいのに、虚しくなる。

 千束もこんな事望んでいないだろうけど、はやり考えてしまう。

 俯く俺をチラッと見ると、


「さて作くん、話しよっか」


 改めて座り直すと、膝に手を置き俺の目を見る。


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