第59話 冗談だからぁ~!
「ちょ、作く~んお化け屋敷入ろうよ~!」
逃げる俺の手を引き、必死に止めようとする。
「もう俺は行く気がなくなった。観覧車行くぞ~」
「えぇ~、空いてるし良いけどいさぁ?」
「だろ?なら行くぞ」
「それに、空いてると両隣の人からの視線が気にならないからなんでもできるしね」
「結局変な事する気だったんじゃねーか」
「冗談だよ~、今日はちゃんとお話しするから~」
なんか信用なくなってきた。ちゃんと襲われそうで怖い。
あの悲し気な目が演技だとしたら、名女優になれるぞ。
「とりあえず、お化け屋敷には行かないからな」
「ねぇねぇ~、ならさぁ~?ゲーセンには寄らない?」
ゲームセンターと書かれた看板を指差す椎名だが、
「どうせプリクラ撮りたいとか言うからヤダ」
こいつが、ゲーセンに行ってシューティングゲームやメダルゲームをする訳がない。
まぁ、今の状況でメダルゲームは普通に場違いだが。
それに、一回プリクラで地雷踏んだからな椎名の奴。その件についてはもう気にはしないが。
「え~ぇ~!プリクラ撮ろうよ~!」
「なんでだ」
「せっかく来たんだよ!?思い出に撮ろうよ~、後悔はさせないからさぁ~?」
「プリクラか~」
と、頭を悩ませる俺。
別に、撮る事自体はそこまで問題ではない。
これまで椎名が俺にしてきたことを考えれば何枚撮っても足りないと思う。
だけど、その撮った写真をどうこうされるのが嫌だ。
変な事に使われそうだ。何枚にも印刷して部屋の壁中に貼られたり、舐め回されたり。
それをされたとしても、俺は何も言えないだろう。
「……………撮るか」
悩んだあげく、撮る事にした。
ただプリクラを撮るだけだが、これは椎名にとっては最高の恩返しだと思う。
椎名みたいに傍に居てくれたり、陰で頑張るみたいに、気付かれないくらいがちょうどいい。
「作くん最高ぅ~!!」
返答を聞いて、勢いよく抱きついてくる椎名。
「やめっろ、暑苦しいな」
「いいじゃぁ~ん!喜びは行動で表すものだよ~!」
「だったら笑顔で十分だ」
嬉しいのはパァっとした笑顔で伝わって来る。
「でもさぁ~、なんだかんだ作くんも私とプリクラ撮りたかったんじゃないの?」
クククと口元を抑え、目を細めてこちらを見てくる。
「うん、やっぱやめよう」
このやり取り、何十回目だ。相変わらず懲りないな。
「作くんついに冗談が通じなくなったわけ~?」
「いや、もうそのやり取りがめんどくさくなった」
「分かった!分かった冗談は一日10回までにするからさぁ?」
「せめて3回くらいにしろ」
「それじゃちょっと少なくない?」
「撮るのやめるか?」
「分かった分かりましたから!」
合掌をしながら頭を下げる。
本当に分かっているのだろうか。
もし、約束を破ったなら、俺の顔を隠してプリクラを売ればいい。
モデルのプリクラ(誰か分からない男との)は絶対レアだし高額が付きそうだ。
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