第57話 意外に見てるじゃん


「いやぁ~、面白かったね~作くん」


「乗ってるだけで疲れるんだなジェットコースターって」


 乗り終わった俺達は、出口のベンチでジュースを飲む。

 久しぶりに乗ったからか、精神的に疲れる。椎名のせいもあるとは思うけど。


「タフじゃないな~。私はあと5回は乗れるよ」


「体力の問題の前に、飽きるだろ」


「体力ない男の人は嫌われちゃうよ?特に夜は」


「うるせー」


 缶ジュースをこちらに向けてくる椎名に、俺は視線を逸らす。


「それに、一人で乗ったら飽きるかもしれないけどさ、作くんと乗ったら一生飽きる気がしないな」


 ジュースを飲み、ホッと一息つく。


「なんかさ、作くんが隣にいるだけで楽しいんだもん私。大好きだからってだけかもしれないけど」


「隣にいるだけ……………ね」


 と、呟く。

 隣にいるだけ。ただ椎名が俺に付きまとって強引に俺の隣にいるだけだ。

 それが日常と化している。


 いい意味でも悪い意でも、椎名が隣にいないと今となっては非日常。

 妄想にツッコみを入れたり、奇行に怒鳴ったり、何気なく会話をしていたり、その生活が2年前から日常になっていた。


「ってか、まだ時間あるし、まだ観覧車並んでないからお化け屋敷行っちゃう?」


 飲み終わった缶を捨てると、椎名はベンチから立ち上がりながら言う。


「でも観覧車乗りたいんじゃないのか?」


「まあ、どうせあと30分後には乗ってるし~、お化け屋敷で作くんが怖がるとこ見たいんだもん」


「俺は別に行ってもいいけど、その前に質問がある」


 俺も立ち上がると、


「ジェットコースターの頂点で何を言いかけた?」


 先程からずっと気になっていた。

 椎名のあんな顔、そうそう見ないからな。


「ん~?別になんでもいいじゃ~ん。なんで~?」


 笑って誤魔化そうとする椎名だったが、


「言いかけた時、なんか浮かない顔してたから」


 わざと、少し視線を逸らしながら言うと、椎名はハッとする。


「な~んだ。意外に私のこと見てるじゃん、作くん」


 フッと小さく笑うと、俯く。


「いや、お前があんな顔するの久しぶりに見てな」


「それで気になっちゃったんだ」


「そんな所だ」


 普段から笑顔だからこそ、気になる。

 なにか、大事な話があるときにしか、椎名はあんな顔をしない。

 千束の件で言ったカラオケの時と、同じ顔だった。


「作くんと話がしたいんだ私」


 背中を向けると、後ろで手を組みながら言う。


「話ね………………」


「そう、2人きりでしたい話」


「なんだよ」


 俺はフッと鼻で笑う。


「なに、作くん」


「俺と同じじゃねーか」

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