第56話 変態さんだね

 そんな事を考えていると、俺達の番が来た。


「作くん、覚悟は出来てる~?」


 先に乗り込み、手招きをしながら不快な笑みを浮かべる椎名。


「まぁ、ジェットコースターは好きだし、そんな覚悟するほどでもない」


「違うよー、ラッキースケベの覚悟だって~」


「んなもんしてねーわ」


 吐き捨てるように言うと、俺も椎名の隣に乗り込む。


「ほら、太ももがくっついてるよ~」


「当り前だろ、狭いんだから」


「こうゆうのってドキドキするよね~、JKの太ももだよ~白くてモチモチで誰もが挟まれたくなる太ももだよ~」


「安全バーで見ませーん」


 と、目の前にある安全バーを腰辺りまで一気に下ろす。

 スベスベな太ももに挟まれたい願望は確かにある。これは全男子が思う事だろう。

 言っておくけど“顔”をだからな。


「これじゃパンツも見えないじゃーん」


「見えなくていい」


「えーでも、今日可愛いの履いてきたのに」


「お前は命とパンツどっちが大事なんだよ」


「うーん……………パンツ?」


「命よりパンツがあるか」


 いつももろ見せてきてるじゃないか。まぁパンチラの方が個人的にエロく感じるが。

 無駄な会話をしていると、ジェットコースターは進み出す。


「この登って行く時が一番楽しくない?」


「一番ではないけど、ワクワクはするよな」


「それって興奮するってこと?」


「あ?」


「作くんは、どこでも興奮しちゃう変態さんだね」


「お前だけに言われたくない」


 一回、椎名の脳を摘出して詳しく観察してみたいものだ。

 絶対何かしらの寄生虫が住み着いている。


「もー、そーんなムスッとした顔して、作くんは今楽しくないの?」


 横から俺の頬を突き、椎名は言ってくる。


「アトラクション自体は楽しいけど、お前の相手で疲れる」


「もっと大人しくしろって?」


「そうだ」


「え~、いつもより大人しくしてるつもりだけどなー」


「ならもっと静かにしろ」


 言われてみれば、いつもよりかマシだ。でも、これでマシなら、いつもがヤバすぎると言うことだ。

 先日の映画館といい、カラオケといい、あれは奇行過ぎたからな。


「うーん、静かにか~。逆に聞くけど、どうしたら私が静かになると思う?」


「お前が自分自身で行動を抑制する」


「じゃなくって!作くんが私になにをすれば大人しくなると思う?」


「亀甲縛りをしてロウソクでも垂らしたら黙るか?」とでも言いたいところだが、これをすると逆に喜んで声を荒げそうだ。

 それに、その答えはもう知っている。


「作くん」


「なんだ」


「観覧車、これ終わったらもう乗らない?」


 唐突に言ってくる。


「なんでだ?」


「もう暗いし、今くらいの方が人も少ないし―――――」


 安全バーをぎゅっと握りしめ、俺の目を見る。


「――――――――」


 その刹那、椎名は何かを言いかけたが、頂上に着いたジェットコースターは一気に落下する。


 ものすごい勢いで当たって来る風の中、椎名の方を見る。

 どこから寂しげな顔をしていた椎名だったが、既に笑顔の中に消えていった。

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