第51話 我慢さ

「はいいいよー、そのまま続けて~」


 シャッターが切られる中、その都度ポーズや表情を変えていく。


「これが彼女だよ、すごいだろ」


 フフフと笑いながら遠目に椎名を見る阿部さん。


「確かに、すごいですね」


「プロだよ、モデルの中でもズバ抜けている才能さ。シャッタースピードに合わせて表情や仕草を変える。しかもどれも完璧」


「才能ですか……………」


「そう、才能。まぁ彼女のは隠れた才能を引き出したといった感じだがな」


「引き出した?」


「あれ、気づいてないのかい?」


「え、あ、はい」


「誰かの為に一生懸命に努力したから、驚異の伸びでモデルとしての才能を伸ばした。こう言ったら分かってもらえるかい?」


「俺の為って、ことですか…………」


「面接の時から、そう彼女は言っていたね」


 ということは、俺が千束とのことがあってからすぐという事になるのか。

 このモデルとしての才能は、俺の為、カラオケボックスで言っていた安心の為。

 椎名の日常としての性格はアレだが、仕事やちゃんと色々考えているとなると本当に考え深くなる。


 今度、ちゃんと話をしなければな。

 そう考えながら、俺は椎名の方を見る。


 被っている麦わら帽子を前へ傾け、階段に座っている足をクロスにして伸ばす。そこに照らされる太陽。

 羽を伸ばしたお嬢様みたいな姿であった。


「どうだい?私が言ったことは君に刺ささったかな?」


「はい、結構」


「ならよかったよ。彼女はもう報われてもいい頃合いだからね」


「ずっと我慢してたってことですか」


「我慢、そう我慢さ。君の見てない所で我慢してるさ」


「…………見てない」


「君の前で元気なところを見せてる、これは彼女が徹底していること。でも、私によく泣きついてくるよ」


「あいつが、泣く?」


「愚痴を聞かされたり、泣きながらカラオケで永遠に歌ってるのに付き合ったりご飯を奢らされたりそれはもう色々」


「………なんかすみません」


 椎名が泣く。確かにここ数年は全く見たことがない。俺の前では笑ってるか目が死んでるかしか見せていなかった。

 これも、俺を安心させる為にやっていたことなのか。

 強い人は、表では泣かない。この言葉を重みをすごく感じる。


「だから、この後でもいいからここに2人で行きたまえ」


 と、とあるチケットを差し出してくる。


「これは…………」


「景色がいい所で30分も時間があればいい話が出来るんじゃないかい?ここからも電車ですぐ行けるし」


 渡されたのは、みなとみらいにあるコスモワールドの観覧車のチケットであった。


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