第49話 たまに、思い出したくなる
「それに、君は彼女の事が好きなはずだ」
「なっ―――――」
「その反応図星かね?」
「い、いや!そんな事は」
いきなり言われたことに、不本意ながらも赤くなる俺。
俺が椎名の事を好き?そんなことはありえない。
幼馴染との恋愛なんて所詮アニメの世界でしかありえないことだ。
現実で、それに椎名となんかでラブコメが始まるわけがない。
「気づいていないだけか、認めたくないだけで心のどこかではその気持ちがあるはずだよ、君は」
「どいうしてそう思うんですか」
「だって、顔に出てるし普通に仲いいじゃん君たち」
「仲良く見えましたか?あれが」
「大前提、大嫌いな相手と一緒に嫌いな人の仕事を見学しになんてこないだろ?朝からスタバに寄ってさ。その前に、口も効きたくないはずだ」
「……いや、まぁ…………」
「まだ子供だ。言われて気づくこともあるさ」
本当にそうなのか。
まだ、俺は千束の事が好きだ。これは一生変らないと思う。
だけど、自分の中でも過去にした本気の恋。という事で終わらせたいとも思っている。
いくら俺が千束を思っていたって、千束は帰ってこない。
一生俺が虚しい思いで過ごすのも、千束は絶対に望んでいない。
あいつがここにいるのならば「作くんは笑って過ごして欲しいな。もっといい人と巡り会って、私としたこと、できなかったことまでして、幸せにしてあげて欲しいな」と言ってくれるだろう。
「ま、その答えは彼女の仕事姿を見てから決めればいいさ」
阿部さんは立ち上がり、飲み終わった缶をゴミ箱に捨て、喫煙所に向かう。
胸ポケットからタバコを取り出すと、銀色のジッポで火をつける。
「吸うんですか?」
遠目にそう聞く。
「まぁね。このジッポを使う機会がなくなるし」
「なにか思い入れがあるんですか」
「私の今は亡き初恋の人に貰った物だからね。この銘柄も、彼が吸っていたものなんだよ」
「彼の影響ってことですか」
「いやいや、私はタバコが大の苦手でね……………まぁでも、今では好きさ。当時の彼みたいにね」
煙を口に含むと、青空に吐く。
「私にも、今夫がいるのさ。それが今君たちで表す所の雪穂」
「ってことは―――」
「そう、私は依存されていた人と結婚している」
「ならタバコは」
「今は夫のことが好きさ。でも、たまに思い出したくもなる。この味と音をさ」
と、ジッポを開け、フリントを擦り火をつける。
高く上がる炎は、当時の阿部さんが経験した恋と同じくらいの火力のような気がした。
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