第47話 お話しようか

「まぁいいさ、後でゆっくり聞けばいい話さ」


「話すことないですけどね!?」


「いっぱい聞きたいことがあるさ。なにせ雪穂と色々親密らしいし」


「色々親密ですけど、変な誤解しないで下さいよ」


「そうだね」


 と、コーヒーを一口飲む。

 この人、椎名とは違うヤバい雰囲気を醸し出してる。

 何を考えてるか全く分からない。一番怖いタイプだ。


「とりあえず、雪穂。映り具合の確認したいからメイクしてきてもらって」


 横にいる椎名に、ipadを操作しながら言う。


「分かった~、作くんはここに居る感じ?」


「そこの椅子で私と雑談でもしてるよ、話したいことが山ほどあるし」


「そっか!了解~!じゃぁこれ持ってて!」


 阿部さんに持っていたドーナツのゴミと飲み終わったフラペチーノのカップを渡して、「作くん!私の本領はここからだからね!」と言って、管理所の中に入っていった。


「さて、和泉くん」


「は、はい」


「私とお話しようか」


 やさしくも鋭い目つきに、俺はゴクリとつばを飲む。

 これは何をされるのか。質問攻めされそうで怖い。

 椎名のマネージャーなんて、仕事で一緒に行動してるだろうし、どれくらい椎名に俺のことを言われているかたかがしれない。


「そこにでも座って話そうか」


「…………はい」


 促されるまま、近くにある椅子に座る。


「コーヒーでいいかね」


「あ、ありがとうございます」


 前のテーブルに置かれた缶コーヒー。これがワイロというやつなのか。


「さっきのこと鵜呑みにしないで下さいね」


 缶を開けると、一口飲む前にそう言う。

 全部信じられてたらたまったもんじゃない。学校でならまだしも社会にまでこの事が出回ったら溜まったもんじゃない。


 もう雑誌に載ってて手遅れだが。まだ名前が出てなかっただけマシだ。


「大丈夫、あの子が虚言なのは知ってるし、その理由も知ってるから安心して」


「ならよかったです」


 ホッとため息を吐く俺。

 ちゃんと理解している人で良かった。まずは一安心だ。


「彼女、あの性格を除いては凄くいい子だよ。真面目に仕事はするし、私以外には礼儀が成っている、最初の頃は私にも礼儀正しかったんだけどね」


「真面目………考えられないですね」


「それはこれから分かることさ。仕事になると一気に顔が変わるから」


「そうですか…………」


「ビジュアルは完璧、表向きには最高の人物なんだけど、君への執着だけでそれをすべて台無しにしている」


「すげー分かりますそれ」


 完璧美少女がすべてを台無しにする理由は、少しズボラな所でもなく、変な価値観を持っている所でもない。


 全世界共通で俺への執着だった。


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