第44話 ただの異常者

「だと思ったよ」


「やっぱ、デートだったら一回は行きたいよね~」


「勝手にデートにするな。お前の仕事について行ってるだけだ」


「硬いな~、仕事に行くまでだって立派なデートだよ」


「根本的に違うだろ」


 何がデートだ。

 もう飽きたぞこのやりとり。一生続きそうだ。


「細かい所はいいから、早く入ろ?」


「ったく」


 と、手を引かれるがまま店内に連れ込まれる。

 中に入ると、オシャレなBGMが鼓膜をくすぐり、香ばしいコーヒーの香りと洋菓子の甘い香りが鼻孔を撫でる。

 席には、コーヒーを静かに楽しむ人や、パソコンでなにか作業をする人など様々なであった。


「作くん何飲むの~?」


 立て掛けあるメニューに駆け寄り眺めながら、ノールックでこちらに手招きする椎名。


「そうだな、やっぱ無難に抹茶フラペチーノかな。ホイップ増量で」


 メニューを指差しながら言うと、


「甘いね作くん」


 人差し指を左右に振りながら、片目でこちらを見てくる。


「なにだが」


「スタバはね、遊び心とチャレンジ精神が大事なんだよ?」


「例えば?」


「まぁ見てなって」


 俺の肩を叩くと、透かした顔を浮かべながらレジへ向かう椎名。

 どうせちょっとだけカスタムするだけだと思っていたが、


「キャラメルフラペチーノホイップ増量キャラメルソース追加チョコチップ追加キャラメルチョコレートバニラクラシックシロップ追加抹茶パウダー追加で」


 それは呪文であった。

 よくスラスラと言えるよな。日頃俺に対して死んだ目でメンヘラしてるから言えるのか?


 にしても覚えられるのも凄い。

 注文し終わると、フンスと鼻を鳴らしながらこちらを見てくる。

 凄いとは思うが、そこまで自慢げにするような物ではない。


「あ、あとクッキー&クリームドーナツとチャンクスコーン下さい」


 そう付け足すと、代金を払いレシートを持ちながら受け取り口へと移動した。


「俺も頼むか」


 空いてるレジへと進み、「抹茶フラペチーノ、ホイップ増量で。あとチョコレートドーナツもお願いします」といつものを注文した。


「どう?私の遊び心満載の注文は!」


 キラキラした目で聞いてくる椎名。


「甘すぎて気持ち悪くなりそうだし、店員さんも引いた目でお前のこと見てたぞ?」


「甘いは正義!店員はさ多分ニュービーなだけね」


「お前が異常なだけだろ」


 どこに行っても椎名が異常者だということは変わらないようだ。

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