第39話 エッチだよ

「じゃ、作くん。私が歌うからノリノリで乗っかって来てね~!」


 マイクを持って人差し指を天井に上げる椎名だが、


「おい、みんなはどうした?」


 すぐそこまで来てるはずなのに異様に遅い。


 ここまで来て十何人も一気に迷うわけないし、部屋番号だって椎名が伝えてあるから間違えようがない。


 ちょっと待てよ?

 椎名が受付をして、先に俺を部屋に誘導している。それに、カラオケが好きとは言ったものの、やけに積極的に行動している。


 完全にハメられた。


「受付にいるんじゃない?」


 呑気に流れるイントロを聞きながら言うが、


「お前ヤッたな」


「ん?何が?」


「とぼけるな、みんなをここじゃなくて別の部屋に誘導しただろ」


「そんなことしないよ~、作くん何言ってるの~?」


「分かりやすい逃げ方だな、俺もみんなのところに行く」


 と、席を立とうとすると、


「チっ……………作戦失敗か」


 目を細めて音源を止める。


「今舌打ちが聞こえたんだが?」


「ううんしてないよ?」


「完璧にしてたじゃねーか」


「それよりも、バレちゃったんだったらプランBにするしかないね」


「え、プラン?………ちょ、お前何すん――――」


 言いかけた刹那、椎名は俺をソファーに倒し込み、俺の両手を頭の上にやると、いつの間にかバッグから出した手錠で身動きを取れなくする。

 その腕を器用に押さえつけながら、さらに足もガムテープでグルグル巻きにする。


「やめろ!はず―――――」


「よし、か・く・ほ」


 言いかける口に椎名はトロンとした目をしながら、俺の口に指を当ててくる。


「そう、みんなは今2つ隣の大部屋いるよ。それでね、ここは広い私たちの愛の巣になるの」


「どっちかというと監禁部屋なんだが?」


「監禁じゃないよ?作くんはこうしないと逃げちゃうから仕方なくしてることで、私だって本当はこんな事したくないの。それは分かってくれる?」


「メンヘラが惚れてストーカーしてる男子を監禁したときに言うセリフだろそれ」


 よくホラー映画の題材になる話だ。

 これ、やられてる当事者になると以外に抵抗できないもんだな。

 もっと、こう暴れられると思ったが、思ったように体が動かない。


「作くん、ここは防音だし声を出しても誰にも聞こえないから安心してね?」


「不安でしかないんだが?」


「だから、作くんは心を安らかにして私に体を預けていいからね」


 息を荒くしながら制服のブレザーのボタンを外し、ワイシャツのボタンまで手を掛ける。


「ちょ、カラオケボックス防犯カメラあること知ってるのか!?」


「大丈夫、ここのカラオケ古いから防犯カメラが室内にないの」


「…………お前そこまで計算してたのか」


「当り前じゃない、これで愛の巣は誰にも邪魔されないね」


 馬乗りになり、俺の頬を両手で触ると顔を近づけてくる。


「何する気だお前」


「そんなのこの状況で分かるでしょ」


 と、耳元でこう囁く。


「エッチだよ」

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