第38話 私をなんだと思ってるの?

「もぉ~、作くんの歌聞きたかったのに~」


「はいはい、もういいから早く行くぞ」


「ちぇ~」


 ムスッとする椎名を放っておいて、俺は歩幅を大きく歩く。

 もう早くカラオケの部屋に入ってドリンクバーとソフトクリームを堪能しながらゆっくりしたい。

 まぁ、こいつがいる時点でゆっくりはできないんだけど、外よりは幾分マシだ。


「作くんここだよ~」


 と、指を指すのは様々なテナントが入った雑居ビル。その2階がカラオケ店になっている。


「早く入ってデカい個室取るぞ」


「えいえいさ~」


 ノリノリで敬礼をすると、軽快なステップを踏みながら階段を登る。

 2人でカラオケならテンションが上がる理由は分かるが、後からみんなが来るのに何故ここまで高いのか分からない。


「作くーん、お会計とか色々するから部屋先入って置いて~」


 レジに立ちながら、俺に鍵を投げてくる椎名。


「え、あ、分かった」


「私もすぐ行くし、みんなももう少しで来るって」


「了解―」


 鍵をチャラチャラと鳴らし、他の部屋から漏れる歌声を聞きながら廊下を歩いて行く。


「ここか」


 番号が示す今日の部屋は角部屋。

 室内は通常の部屋より4倍ほど大きく、モニターはテレビではなくプロジェクターになっている。

 ミラーボールやマラカスまで付いていてパーティ使用だ。

 これは盛り上がりそうだ。


「とりあえずドリンクバー」


 荷物を下ろし、席を立つと飲み物を取りに行く。

 その時、微かに見える椎名は、まだレジに立っていた。

 団体の利用だから何か書いているのだろうか。


 ま、そんな事は気にしないで足早に部屋に戻りストローからメロンソーダを勢いよく飲む。

 強炭酸が喉で弾け、一気に疲れが飛んでいく。私服のひと時だ。

 その時間を邪魔するかの如く、


「お持たせー、みんなもうお店の前いるって」


 グラス2個持ちながらお尻でドアを開けてくる椎名。


「あいよー、部屋番号教えたか?」


「当り前じゃない、私をなんだと思ってるの?」


「メンヘ…………いや、なんでもない」


「ったく、それに飲み物持ってきてあげたのにもう既にあるし」


「喉乾いてたからな」


「せっかく彼女が気を利かせて持ってきてあげたのに」


 と、ムスッと眉を細める。

 何回も言うが、俺はこいつの彼女になった覚えが一切ない。

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