第36話 抑えられないよ…………



「ということで、今日は安心してカラオケを楽しんでくれ。ここでテストの疲れを取らなきゃ明日からの学校生活がしんどくなるぞ?」


 パンと手を叩くと、明るい声で言う。


「いや、俺テスト勉強の疲れより、部屋で勉強してる時に邪魔してくる椎名の対応に疲れてるんだが?」


「あー、そうなのか


「あと、学校生活がしんどいのは毎日変わらん。私生活でさえしんどいんだぞ?」


「……………なんかごめん」


 申し訳なさそうに俺の方を叩く葉月。


「その顔やめろ」


 同情されるのは一番ムカつく。

 そんなに、同情するのなら行動に是非とも行動に移してほしいものだ。


「なら早速、俺達は移動するぞ」


 バッグを持つと、急ぎ足で廊下に出る葉月。


「おい、みんなはどうすんだ?」


「椎名をみんなで囲ってお前の行方をくらますんだよ。まずは近寄らせないからだ」


「ナイスアイデアだな」


 俺も急いで教室を後にするが、


「ちょ、作くんどこ行くの!」


 椎名の声がみんなの声を貫通して聞こえた。

 その瞬間、背筋が凍り付く。


 バレた。これは作戦失敗だ。

 絶対にあいつはこっちに来る。そして、俺の隣を頑なに離れない。


「どうすんだよバレたじゃねーか」


 葉月のバッグを引っ張ると、俺は小さく怒鳴る。


「大丈夫だ。佐那がなんとかしてくれるはずだ」


「マジで頼んだぞあいつ」


 と、俺達は廊下を走るが、


「さっくくーん!」


 いつの間にか背後に居た椎名は、俺に勢いよくハグをしてくる。


「えっ!お前いつ来た!?」


 反射的に前に逃げると、目を見開き後ろを見る。

 どっから現れた?一切足音聞こえなかったんだけど!?

 こいつ、暗殺者か何かなの?そっちの方の仕事向いてるんじゃないんか?モデルより。


「え?作くんが教室出るの見かけたから付いて来ただけだけど?」


「佐那は?」


「あー、なんか止められたけど、別に来れたわよ?」


 不思議そうに首を傾げる椎名。

 これは何も通用しないようだ。

 同級生はダメだ、確実に椎名に負ける。多分大勢で囲んでも止められないだろう。

 その証拠に、


「葉月…………ダメ…………私には雪穂ちゃんを抑えられないよ…………」


 教室から息を切らしながら出てくる佐那。

 この様子だ。絶対に止められない。


「てめーどうしてくれるんだ」


 横にいる葉月を睨みつける俺。

 作戦が全部水の泡だ。これは考えた人に責任が問われる。

 なにせ、俺の命が掛かってるんだからな。


「どうしろって、俺の案はもうない」


「ないじゃねー。考えろ」


「いや、もう俺には無理だ。あとはお前が頑張ればいいだけの話」


「だけの話?お前が安全に過ごせるからカラオケ行こうって行ってきたじゃねーか」


「そうだけど、無理だから俺は佐那と楽しむよ」


「は?」


「だからさ、お前も開き直って椎名と楽しくやっちゃえって」


 諦めて真顔になっている葉月は、俺の肩を叩くと、佐那と手を繋いで教室に消えていった。


 こいつ……………二度と手を繋げないようにしてやる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る