第34話 ……逝くか


「やっと2人きりだね―――ハァハァ……………作くん」


「おい、服を脱ぎ出すな」


 ここはカラオケの一室。

 隣にはクラスメイトが大部屋で10人ほどワイワイと歌っている中、俺と椎名は別室にて2人きりになっている。


 ソファーに馬乗りにされる俺、目の前には息を切らしながら、おもむろにワイシャツのボタンを取り出す椎名。水色のブラが顔を覗かせる。


 血走った眼は、俺の下半身を凝視し、じゅるりとよだれを垂らす。


「さぁ、愛を確かめあいましょう」


 徐々に距離を詰めてくる椎名。


 その顔を、全力で抑える俺。対してギンギンなっている息子。


 どうしてこうなった?






                *






「カラオケ行くぞ~!」


「「「「「おぉぉ~~~~!!!」」」」」


 1週間後、中間テストが終わると、突然クラスメイト達が騒ぎ始めた。

 そんな中、そーっと帰宅しようとした俺に、


「お~い、作ももちろん来るよな?」


 満面の笑みで、葉月は俺の肩を叩き声を掛ける。

 山岡葉月(やまおかはづき)。高校からの友人だ。

 クラスの中心人物、愛想の良さからみんなからの信頼が厚く、なんといってもモテる。

 イケメンだから、ウザいくらい。


「いや、行きたいんだけどさ…………」


 と、言いながらゆっくりと視線を椎名の方に向ける。


「あいつがいるやん」


 そう、ここで帰れば俺に1人の時間が出来る。

 先日の事で分かるだろうが、椎名は歌うのが好きだ。


 だから、クラスの打ち上げ、カラオケとなると断らないだろう。多分。

 まぁ、俺を無理やり連れて行くか、家に来て「カラオケ来ないなら私の歌声ここで聞いて」と家で熱唱されるのがオチだろうけど。


「雪穂のことなら心配しなくていいぞ」


 葉月は呑気に紙パックのいちごミルクを飲みながら言う。


「何か策があるのか?」


「策というか、みんなで話合ったんだよ。流石に今日くらい作に楽しんでもらいたいって」


「おー、なんかありがと」


「毎日あんなんだと疲れるだろうしな」


「過労死しそうだわ」


「ご愁傷様だわ。傍から見ててもキツイのに」


「うっせ。それで?どんなアイデアを出したんだ?」


「雪穂を美帆と紗那に抑えてもらって、俺はお前のボディーガードになる。まぁ、物理的に接点をなくすってわけよ」


 美帆(みほ)と紗那(さな)は椎名の友達だ。


「あいつ、それで止められると思うのか?」


「んー、やる価値はあると思う」


「だな。ないよりはマシになるか」


「なら来るだろ?カラオケ」


「……………逝くか」


 漢字が違う気がするが、こっちの方が合っているかもしれないな。


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