第33話 ねぇねぇねぇ

『あ、作くん。私ん家側の窓一回開けて見てくれる?』


 唐突に話を変えて提案してくる椎名。


『は、なんで』


『いいものが見えるか~ら』


 こいつが言ういいモノは俺にとっては悪いモノでしかない。

 予想が出来るぞ。


 窓を開けたら、対面にある椎名の部屋の窓から椎名が全裸で胸を強調させながら手を振っている。

 それか、大きい画用紙に「作くん大好き」と書いて全裸でこちらに見せてくる。

 どちらにしろ、全裸なのには変わりはない。


『なんで見てくれないのよ~。もう準備終わってるのに~』


『なんの準備だよ』


『それは~…………作くんを喜ばせる為のものだよ~』


『遠慮しておく』


 と、俺は電話を切った。

 ここでもし、見てしまったのならその光景が一生脳裏に焼き付くであろう。

 だがしかし、気にならないわけではない。


 堂々と見るのは嫌だけど、覗くくらいなら大ダメージにはならないだろう。


「覗くだけなら」


 俺は窓の方へ向かうと、そっとカーテンを開ける。

 道路を挟んで真正面にある椎名の部屋、カーテンを半分ほど閉め忘れていた。


 そこから見える光景は、下着は付けているものの、いつも俺に見せてくるような見せブラではなく、完全なる黒の勝負下着であった。クソエロい。


 加えて、手に持っているのはマッキーペンと大き目の画用紙。

 ハートのシールやラメでデコレーションされた画用紙には『エッチしよう!』とそれはもう単刀直入に書かれていた。

 やはりあの場で開けなくてよかった。


 バッと窓を開けてたなら、普通に反応に困った。

 こう、こっそり見るならどんなエロい目で見ても何もならないが、椎名が俺の反応を見たら大喜びするだろうな。

 自分の体で興奮したって。


「はぁ………………」


 カーテンを閉めると、俺はベットに倒れ込む。

 この事も忘れよう。

 寝てすべてを忘れて朝を迎えよう。


「だがその前に」


 ベットから立ち上がり、ドアにタンスでバリケードを作る。

 これで椎名が入ってくることもなさそうだ。


 しっかり対策をして、安堵した俺は眠りについた。





 だがしかし………………

 ドンドンドンドン


「作くんねぇ開けてよどうしたの作くんなんでドア開かないのもしかして私が入れないようにしたのねぇねぇねぇどうゆうこと?私におこしてほしくないのだってそうだよね部屋に入れてくれないってことはそうだよねねぇねぇ」


 ドアを叩きながら、永遠にブツブツと言い続ける椎名。


 これはこれで最悪だ。


 ……………ホラー映画にしか見えない。


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