第30話 今夜は寝かせないから


「…………………今日は疲れた」


 家に帰った俺は、自室のベッドに倒れ込むと枕に向かってそうい呟く。

 過去の事を思い出し、椎名の事を聞き…………頭の中が混乱している。

 頭を少し休ませなければ。


 仮眠して、無心になったらゲームしよう。

 それで、少しは今日のことを忘れよう。記憶の片隅にあっても仕方がないからな。


 落ち着いたジャズをスピーカーで流し、部屋の電気を消すと布団を頭まで被る。


 数分が経つと、音楽で心が安らぎ徐々に瞼が重くなる。

 またしばらく経つと、俺の意識は無くなった。






 ゴソ ゴソゴソ


「んっ――― なんだよ………………」


 布団が擦れる音と、腹部への違和感で俺は目が覚めた。

 この感覚、覚えがある。

 それも最近、今朝のことだ。

 勘付いた俺は、ゆっくりと布団をめくる。

 すると、案の定そこには、


「こんな時間に寝るなんて、夜寝れなくなるよ?」


 服のはだけた椎名が居た。


「お前、なにしてる」


「あれ?作くん驚かない?もっとうわ~ってなると思ったけど」


「今日2回目だぞ。もう慣れた」


「な~んだつまんないの~」


 と、プクッと頬を膨らませる。


「早くどけよ」


 鋭い眼差しを向けるが、椎名はお構いなしに俺の方に倒れ込む。


「今、どけって言った聞こえなかったか?」


「言われたよ?でもどかないから」


「は?どけよ」


「だ~め」


 俺の鼻をちょんと小突くと、


「今夜は寝かせないからね」


 耳元で甘い声を囁く。


 寝起きと疲労で、怒鳴ることもめんどくさい俺は、椎名と共に起き上がり、


「はぁ………………」


 大きくため息を吐く。


「作くん今日は怒んないね?」


 と、肩を持ちながら小首を傾げる椎名。

 俺は俯いていた顔を上げると、椎名の肩を持ち、


「ごめん、カラオケで言った事撤回する。お前のこと大嫌いだわ」


「うなっ!」


 冷血な声で言う俺に、椎名は涙目になるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る