第28話 椎名のこと
「……私の話をしようか」
俺は、椎名にカラオケに連れてこられた。
対面に座る椎名は、ストローでメロンソーダを飲みながら曲を入れるタッチパネルを操作しながら鼻歌を歌ってる。
「…………なんでカラオケなんだよ」
他に場所くらいあっただろ。家だったら向かいだし、そのまま俺は家に帰れるし。
「話が終わったら、そのまま歌えるしさ~。それで作くんが元気になればなーって」
「歌って元気になれる気がしないんだが」
「それは作くん次第だよ」
「……………はぁ」
と、俺は椅子にうなだれる。
「まぁ、本題に入ろうか」
椎名は頼んでいたメロンソーダを飲むと、真剣な眼差しになる。
「本題………ね」
なんの話をするかは、今回見当もつかない。ただ、いつもみたいな変な話でないことは確かだ。
俺もコーヒーを飲むと、椎名の方を見る。
「私がファッションモデルをしてる理由、教えてあげようかなって」
「理由ね」
「そう!だって作くんのことだから自分が可愛いと思ってしてるとかでも思ってるんでしょ?」
「…………否定はしないけど」
「残念でした~。それは違うよ」
「そうかよ」
「本当はね―――――――」
椎名は立ち上がり、俺の隣に移動すると、
「作くんを不安にさせないためだよ」
肩に頭を乗せながら言った。
「千束ちゃんが亡くなってからさ、作くん生きる意味を失ってた。何をやっても詰まんなそうだし、何を食べてもおいしくなさそうだった。
そこで考えたんだ、私が作くんに出来る事。
それはね、なにがあっても作くんの傍にいることだと思ったの。だから、そのためにはお金が必要。けど中学生だからバイトも出来ない。
それだから、私は中学生でも全うに稼げるモデルという仕事を選んだの」
「そうだったのか……………」
「それにね?ぶっちゃけ当時から私は作くんのことが好きだった。
千束ちゃんと付き合ったって聞いた時、ちょっと複雑な気持ちだったけど、作くんが笑ってる所を見ると、この2人がカップルで本当によかったって思った。
千束ちゃんが居なくなった今、作くんの傍にいる為に出来ること、それは作くんと付き合う事。腹黒い手段だと思ったけど、私は千束ちゃんの2番目でもいい。
作くんの傷が癒えるなら好きな時に使って捨てる。それだけでいいってさ」
「………………。」
「だから私は、今でも作くんにしつこく絡むし、それはこれからも変らない。作くんも私みたいなのが居たら他のこと考えられなくなるでしょ?千束ちゃんのことも余計に考えなくてさ。私だけを考えて」
「お前、言い方が悪いぞそれ」
「作くん、私が変な絡みを始めてから笑顔が増えたもん。それが私はすごくうれしかった。私が嫌われてでも、作くんの笑顔だけは守りたいって」
「じゃぁ、付き合ってると勝手に言ってるのも俺の為か?」
「うーん、どっちかというとそれは私情かな?」
「聞いて損した」
でも椎名がそこまで真剣に考えてるとは思わなかった。
こう、自己中に動いてるかと思ったがちゃんと考えて行動していた。それも俺の為、そして千束の為に。
これに関してはありがたいとしか言えない。
よく考えてみると、よくも悪くも椎名が絡んできた時からこいつのことしか考えてなかったからな。
だから俺は、
「ありがとう、椎名」
普段は絶対にしない事、椎名の頭を撫でてお礼を言った。
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